【特集2】深刻な人材不足解消の道筋 導入意欲をかき立てる政策を

2021年12月2日

【インタビュー/横山明彦・東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻教授】

スマート化は保安人材の不足問題の一助になるのか。
産業構造審議会など各種会合の委員を務める、横山明彦教授に話を聞いた。

―産業保安政策を議論する産業構造審議会保安・消費生活用製品安全分科会の会長や、同分科会電力安全小委員会の座長を務めています。スマート保安政策をどうとらえていますか。

横山  どの企業も保安人材が減少していることに大きな危機感を感じています。例えば電力業界の場合、第二種電気主任技術者の有資格者が減っていて、事業者間で人材の奪い合いが起きています。今後、再生可能エネルギー設備がますます増加する中で、この状況はさらに深刻さを増していく行くでしょう。

 機器やセキュリティーをはじめとするシステムの安全面がしっかりしていることが大前提ですが、スマート保安のような先進技術による高度化および効率化は、企業の生産性向上につながります。さらに、先進的な技術を率先して取り組むことで、業界の魅力度を高めるメリットもあるでしょう。

業界挙げて人材育成を 意識の底上げが重要

―昨年12月に開催された「スマート保安シンポジウム」で電力、都市ガス、石油、化学、製鉄業界の方々と議論しました。どのような印象を持ちましたか。

横山  多くの方が「設備の保安は企業を存続する上での必須事項だ」と語っていたことが印象に残っています。まずは経営層がスマート保安の重要性を理解し、業界をリードする事業者が取り組んでいくことが求められます。同時に、中小事業者や協力企業を取り残さないよう業界全体の意識を底上げすることも大事だと、改めて実感しました。

―普及促進に向けた政府の動きはどう評価されますか。

横山  審議会や会合で議論を重ねるだけでなく、実務面でもスマート保安に資する事業を支援する補助金を設けるなどして積極的に取り組んでいると思います。法改正でも電気分野では遠隔監視システムを導入することで、電気主任技術者の配置要件を一部緩和するよう動き出すなど、安全面をクリアした先端技術を積極的に導入する事業者にインセンティブを与える方向性にシフトしています。

―導入を阻む課題は。

横山  イニシャルコストはどうしてもかかるので、投資に対してどのようなリターンがあるのかを事業者にきちんと示すことが必要です。業務変革に対する納得感が無ければ普及はできません。

 またスマート保安を担うデジタル人材を、どのように育成していくのかも課題です。自社のみで人材を育てる余裕がないのであれば、電力やガス、石油など各業界の保安団体がカリキュラムを組むことでスマート保安人材を育成する手法も考えられます。さらにエネルギー業界にとどまらず、共通の課題を抱える建築、土木、情報通信など、業界を横断した枠組みで人材を育ていくことも視野に入れる必要があります。

―スマート保安を普及する上で重要なことは何ですか。

横山  日本国内で培った保安技術を海外にも展開できるようになれば、新たな収益を生み出す可能性もあります。スマート保安のスキームを作り上げることが、取り組むきっかけになるかもしれません。事業者が進んでスマート保安を導入したくなる制度設計を作り上げることが必要です。スマート保安はまだ緒に就いたばかりの取り組みです。一歩ずつ着実に進めてもらいたいと思います。

よこやま・あきひこ 1984年東京大学大学院電気工学博士課程修了、同大工学部講師、助教授、教授などを経て19年4月から現職。