【目安箱/12月3日】「失敗」に終わったCOP26を考察する

2021年12月3日

◆制約を強め失敗した歴史が繰り返された

英国で行われていた国連の主導による第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が現地時間11月13日に終了した。どの立場から見ても、議長国の英国政府にとっても、合意をまとめるという点では、「失敗した」という評価が妥当なようだ。

2016年に決まったパリ協定は各国ごとに目標を定め、それを実行するという緩やかな国際協定だった。それなのに、今回のCOP26では厳しい制約を課せという欧州を中心とした世論の盛り上がりがあり、石炭火力の停止や途上国援助、数値目標の上積みや強化が議論された。しかし、その点で大きな合意はなかった。

いつものように、日本でのCOP26への論評では、環境問題に詳しくない知識人とメディアが日本政府と産業界を叱ることが、繰り返された。それは間違いだと思う。筆者は15年ほど気候変動交渉を見ており、「各国政府は愚かな交渉を行い、そしてメディアはパターン化したピントのずれた論評をなんで繰り返すのか」と呆れてしまった。COP3(1997年)の京都議定書が、2009年に継続が断念され体制が壊れたように、各国に厳しい制約を気候変動交渉で加えようとすると必ず反発が起きて、合意ができなくなる。それが今回も繰り返されただけだ。

◆環境運動の過激化がもたらした混乱

ただ興味深い変化があった。ここ数年、国連の事務当局や、欧州の環境派と政治家(どちらかというと西欧の左派政党が多い印象)は、気候を巡る危機をあおり、過激な市民運動を利用していたように思える。今回の会議では、そうした過激な人たちを、利用した人が持て余していた。一方で、過激活動家たちも、そうした政治家や環境派の欺瞞を指摘しはじめた。最近の環境をめぐる欧州の奇妙な同床異夢の動きが、壊れ始めている。

学校を休んで気候変動防止のデモを続けたスウェーデンの少女、グレタ・トゥーンベリさんが、このところ欧米の環境活動家のヒロインだった。彼女は2019年のニューヨークの国連気候変動サミットや、同年のCOP25(マドリード)では、演説を会場内で行った。ところが、彼女は今回のCOP26では会場の外で演説をした。中に入れなかったようだ。過激すぎて国連や会議事務局でも相手ができなくなったのだろう。グレタさんは批判を強め、こんなことを言っていた。

「これはもはや気候会議ではない。北半球の先進国によるグリーンウォッシュの祭典だ。指導者は何もしていない。彼らは自分の利益のために抜け穴を作っている。拘束力のない約束はこれ以上必要ない。COP26が失敗であることは秘密ではない。」

利用した人達が、今になってグレタさんら過激派を懸念している理由もわかる。主張が暴走し、「大変だ」「危機だ」と恐怖を煽る声が、冷静な議論をできなくさせつつある。

一方で、グレタさんたちの怒りもわかる。各国政府は、かっこいいことを唱えながら、結局は何もしない。彼女の指摘通り、環境外交は「グリーンウォッシュ」(環境の名を唱えて実態を隠す行為)、「祭り」だと思う。主要国は、首脳らが出席し、演説をするパフォーマンスを見せたが、結局、強制力のある措置には踏み出せなかった。各国とも行動は偽善に満ちていた。

ここ数年、欧州は過激な環境派に社会が傾注し過ぎた印象があった。大きな流れは脱炭素であることは間違いないが、目先数年は、こうした過激化への揺り戻しがあり、環境を軸にした政治混乱や対立が激しくなっていくのかもしれない。

◆幸いなことに、混乱から遠い日本

幸いなことに、日本には、まだ気候変動を巡る政治的混乱は、広がっていない。グレタさんに同調して世界の先進国で、若い世代が「Friday for Future」という市民団体で活動している。ただし資金源は不明で、その活動と意図に不透明感がある。日本にも少数、この団体を名乗る若者がいて、活動している。そのデモなどを、メディアが好意的に伝えるが、世間の態度は冷たい。

あるテレビでこの団体のデモが報じられ、高校生が気候変動問題に関連して「もうこれ以上の豊かさ、成長は必要ない」とコメントしたところ、S N Sでは批判と嘲笑が広がった。善意を持つ青年が笑われるのは気の毒だが、対案を考えない提案は滑稽さを伴い、批判されるのは仕方がないだろう。日本の人々が気候変動問題で冷静な証拠だ。

日本は、石炭火力プラントの製造と運用を行い、原子力メーカーを持つ、世界では数少ない国だ。三菱重工グループなど、メーカーの作る石炭火力プラントは世界でトップレベルの高効率であり、環境負荷が低い。日本製の石炭火力プラントで、二酸化炭素は大きく減らないが、大気汚染物質の排出は少ない。また東電の福島原発事故の後で原子力産業は打撃を受けたが、まだ世界トップクラスの技術を持つ。そうした現実を前に、石炭火力を否定し、原発の活用を沈黙する環境運動は、明らかにおかしいし、説得力がないのも当然だ。

また京都議定書で、議長国として温室効果ガス削減のために日本は多くの負担を負ってしまった。その失敗があるためか、今回のCOP26では日本の行政も政治家も、背伸びをして負担を受け入れていない。世界の環境活動家が勝手に決める、気候変動交渉に後ろ向きである国を名指しする「化石賞」を、今回の会議で日本はもらったが、それは逆に適切な政策を行ったという証明だ。菅政権では菅義偉首長と、河野太郎、小泉進次郎両大臣は、環境シフトを掲げ、COP26で過激な政策を連発しそうになったが、政権交代で外れた幸運もあった。

◆日本企業の活躍が始まる期待

こうして考えると、気候変動を巡る国際情勢の中で、日本は今、偶然が重なったとはいえ、いいポジションについているように思える。「温室効果ガスの排出を2050年に実質ゼロにする」という菅前首相が2020年10月に掲げた目標は降ろされていないが、政権交代もあって、岸田文雄首相はそれほど固執していない。石炭火力をやめるという各国の動きにも、今回のCOP26で同調しなかった。変な責任を負わず、ビジネスチャンスの可能性が広がっている。

特に日本のエネルギー業界は、今でも技術面で世界に誇れる企業が揃っている。2年ほど前、2000年に作られた東京電力の東京某所にある地下変電所を、アフリカ諸国の技術者がJ I C Aの支援で視察していたところに、偶然出会った。口々に規模の大きさと緻密な構造を感嘆し、質問していた。20年前のプラントでも、世界の手本になっていた。

日本は企業を中心に気候変動問題で活躍できるはずだ。自らが利益を得ながら、温室効果ガスの排出を減らし、世界と日本で貢献できる立場にあるのだ。電力会社、大手都市ガス会社は東電の原発事故前には、そろって海外での施設運用、プラント建設事業を行う計画を立て、重電やプラントメーカーと協業体制を作っていた。原発事故とエネルギー自由化が進み、そうした動きは流れてしまった。ようやくエネルギー自由化も一段落した。再び海外などで、事業拡大に挑戦することができるかもしれない。

今回のCOP26の混乱と失敗は、気候変動問題が環境活動家や政治家の手を離れ、実務家や技術に注目が向き、主役が移るきっかけになればいいと思う。気候変動交渉をめぐるメディアや、活動家の騒動、政治家の嘘に巻き込まれる必要はない。グレタさんとその仲間たちが喜ぼうと、失望しようと、具体策が実行できないために、気候変動には何の影響も与えられないのだ。

COP26の失敗によって逆に、多くの国で既存の電力・エネルギー供給システムから急に離れられないことが、明らかになった。COP26と同時に、フランスなどが原子力の復権を強調している。これまでと違って、日本に有利な形でゲームチェンジが起きるかもしれない。

願いを込めた楽観的な意見かもしれないが、今回のCOP26が、気候変動問題において、偽善や口先の活動家の目立つ動きから、実務と企業が中心になって具体策が語られ、実際に物事が動く流れへの転換になればいいと思う。そして、その可能性は十分にある。