【コラム/12月20日】経済安保には要注意

2021年12月20日

福島 伸享/衆議院議員

 米中対立が高まる中で、経済安保の機運が盛り上がっている。年明けの次期通常国会には、我が国の経済安保の骨格となる法案が提出される予定となっており、今年の通常国会にはその前段としてのNEDO法等改正案が提出され、可決された。今回の法改正は、半導体を製造する企業の工場立地に補助金を出すための基金をNEDOに積めるようにするものだ。補正予算で計上されている予算額は、約6,000億円! そのうちの約4,000億円が、現在熊本に建設が予定されている台湾のTSMCという世界最大の半導体メーカーに交付される方向になっている。

 コロナ禍などの影響で世界の半導体の流通が大幅に減り、自動車などの生産が滞っている。日本国内に生産拠点を作るというのは、一見素晴らしい政策のように見えるが、実際にはそうはならないだろう。TSMCの半導体の売り上げのうち日本向けは元々わずか4〜5%。世界中の需要がTSMCに集まる中で、日本は魅力的な売り先ではない。おそらく日本に新たに作る工場は、日本向けの製品というより、中国や韓国向けの製品を作る工場になるだろう。TSMCは日本の企業ではなく、日本政府は何ら経営に影響を与えられないから、「補助金をつけるから日本企業のために半導体を作れ」と言っても思ったようには行動はしない。

経産省の担当課長にこの点を問い質すと、「TSMCはちゃんと配慮しますと言っている」と答えるが、ビジネスの世界で契約書も何もない口頭での発言を元に何らかの決断をすることはありえない。TSMCが日本に来ることで日本への技術移転が期待できるかといえば、そもそも来る工場は先端製品ではなく汎用製品の工場だし、わざわざ「技術上の情報管理のための体制整備」を補助認定の基準にしていて、日本側に情報が渡らないようになっている。つまり、この法律では、日本のメリットになることが何ら保証されていないのだ。

このような、日本人の税金を原資として前代未聞の4,000億円もの政府資金を一外国企業に補助する法改正を、衆議院経済産業委員会のたった2時間半の審議で通してしまっていいのか?今ごろ6,000億円の予算措置をするなら、20年前に同額の予算を日本企業に講じていれば、ここまで日本の半導体産業が衰退することはなかったかもしれない。

私が、無所属で勝ち上がった猛者5人で組んでいる会派は同法案に反対したが、与党に加え、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党もこの法案には賛成した。4年ぶりに国会に戻ってきて、劣化した官僚組織とそこが作る政策を無批判に通すだけの無能な政治こそが、日本の衰退の一番の根本原因であることを改めて実感する。読売新聞の報道によると、「経済安保の司令塔」を内閣府に設置するともいう。中身のない政策を隠すための常套手段は、新しい組織の設置と日本版〇〇と銘打った海外の制度を真似た制度を作ることだ。

 経済安保が、生き馬の目を抜くグローバルビジネスの中で、日本がカモになるだけの制度にならないか、キャッチフレーズやタイトルに踊らされることなく冷静に分析することが必要だ。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2021年10月の衆院選で当選(3期目)