【特集2】倫理なきソーラー開発を規制 厳しい姿勢で挑む(長崎幸太郎山梨県知事)

2022年1月3日

【インタビュー:長崎幸太郎/山梨県知事】

山梨県は、森林や土砂災害警戒区域などに太陽光発電施設の新設を原則禁止する条例を施行した。条例制定に至った背景や特長、活用方法などについて長崎幸太郎知事に聞いた。

―2021年10月、県土の約8割を占める森林や土砂災害警戒区域などを設置規制区域とし、出力10 kW以上の太陽光発電施設の設置を原則禁止する太陽光条例を一部施行しました。条例制定に至った背景、条例の特長や狙いについて聞かせてください。

長崎 山梨県では、上質な自然環境ときれいな水がさまざまなブランド価値を創出しています。再生可能エネルギーは本来、こうした自然環境を守るために存在するにもかかわらず、県内にある太陽光発電施設は森林を伐採して建設するなど、自然破壊をしているものが多く目につきます。これは大いなる矛盾です。山間部には水源があり、その水に悪影響を及ぼすことが懸念されるほか、土砂災害を引き起こす危険性もあります。

太陽光発電がこうなった主な原因として、金融商品化して、事業者が責任を持った運営管理に取り組むという意識が希薄になったことがあります。県としては、太陽光発電が真に環境保全に役立ち、地域と共存共生できるようになってもらう必要があるという考えの下、条例を制定しました。

新条例では県に監督権限 事業者とまず対話で解決

―今回のような太陽光発電施設を規制する条例制定を求める声は住民からはありましたか。

長崎 住民はもちろんのこと、市町村などの自治体からもありました。中には「時既に遅し」という地域もあります。その点は悔やまれる部分であり、周辺住民の皆さまには本当に申し訳ないことになってしまいました。が、遅まきながら法的手段に訴えられる仕組みづくりに取り組んでいます。

この条例は、太陽光発電施設が稼働した後の監督権限を県が有します。場合によっては、行政処分することもありますが、そうならないように事前に話し合いを持ち、行政指導することになります。しかし、それだけでは効力がありません。今回の条例では、太陽光発電施設が金融商品である特性に注目し、国にFITの取り消しを求めることができるようにしました。

―金融商品としての価値をなくすというのは大きいですね。

長崎 これは本当に最終手段となります。県が持っているカードは、林地開発許可の取り消し、もしくは今回の条例に基づく措置です。FITの取り消し請求は経済産業大臣にします。しかし、取り消すかどうかは国の判断となります。

いたずらに地方分権を掲げるつもりはありませんが、全国に太陽光発電施設は何万カ所もあります。それらをすべて国は「監視する」と言っていますが、結局行動していません。県民はそのフラストレーションをずっと抱えています。

―この条例を施行できたこと自体が画期的だと思います。ほかの都道府県から反響はありますか。

長崎 問い合わせが相次いでいます。他県もこうした条例施行を検討中だと思います。この条例に違反した建設に関しては法的措置も辞さない毅然とした態度で臨みます。最高裁まで徹底的にやり合う覚悟です。そういった事態も想定して条例は入念に設計しています。

―今回の条例施行で乱開発は収まると見ていますか。

長崎 はい。減少すると見ています。今後は地元に祝福される太陽光発電施設を作ってほしいです。森の中に大規模メガソーラーをつくるのは祝福されないと思います。ほかの太陽光発電の可能性を模索してほしいと思います。

―エネルギー関連で期待している取り組みは。

長崎 現在、県を挙げて水素技術に注力しています。甲府市南部の米倉山太陽光発電所の余剰となった電気を水素に変えるパワーtoガスシステムの実証を進めています。 プロジェクトに参画する東京電力ホールディングスと東レ、山梨県で合弁会社を設立し、同システムをグローバルに広げていく予定です。県内のスーパーマーケットで水素燃料電池によって電気に再び変換し、店内の照明などに活用したり、半導体工場のボイラー用燃料として利用する取り組みを進めています。カーボンニュートラル時代に山梨県が貢献できる手段として取り組んでいます。

甲府市南部の米倉山電力貯蔵技術研究サイト

FITと連動した条例へ 再エネ価値は環境保全にあり

―国の太陽光発電政策に対し要望はありますか。

長崎 今回の条例では、建設や運用における大部分を規制できるよう設計しましたが、最終的にはFIT制度と連動して運用できるようにしていただきたい。県では国に取り消しを申し出ることは非常事態であり、最終手段だと考えています。地域の問題にしっかりと向き合っていただきたい。

―再生エネ事業者に対してメッセージはありますか。

長崎 再エネ開発は価値のある業務だと思っています、それ故、多くの方が投資しようと思うわけです。ただ、地球温暖化も含めて自然環境の保全であるということをぜひ重視してください。

また、太陽光発電施設は長い年月にわたって、地域に存在しうるものなので、地域住民からの理解を丁寧に取っていただきたい。一つは安全性。これはマストです。県としては全く妥協する余地はありません。もう一つは、生活環境への影響です。地域住民はこれも気にしています。ここをしっかりケアして欲しいと思います。

―今後もリーダーシップを発揮してください。ありがとうございました。

ながさき・こうたろう 1991年東京大学法学部卒業、大蔵省(現財務省)入省。在ロサンゼルス総領事館、金融庁、山梨県などを経て、2005年から3期衆議院議員を務める。19年2月から現職。