再エネ普及の一翼を担う 給湯器の遠隔制御システムを開発

2022年1月4日

【四国総合研究所】

LPWAで電気給湯器を制御し、需要負荷を調整する「放送型通信制御システム」。

昼間の太陽光発電量に合わせ負荷を平準化し、再エネ電源を有効活用できる技術が登場した。

 2030年度の温室効果ガス46%削減目標や、50年のカーボンニュートラル実現に向けて、今後ますます再生可能エネルギーの導入が加速する。だが、太陽光や風力など、再エネによる発電量は天候などさまざまな条件によって変動する。20年と21年の5月には西日本で日照量が増え、太陽光発電量が大幅に増えたが、蓄電できない電力のため余剰電力となってしまった。

電力会社では火力など複数の発電方法を組み合わせ、エネルギーマネジメントを行い需給バランスを取っている。このような発電設備の出力調整に加え、需要負荷を制御することも再エネ普及の大きな前進につながる。

四国総研は、電気温水器やエコキュートなどの電気給湯器を遠隔制御し、太陽光発電量カーブに合わせた沸き上げを行う「放送型通信を用いた『電気給湯器・遠隔制御システム』」を開発した。需要家側の給湯器が自律制御して、電力使用全体の需要負荷を調整する。

放送型通信による遠隔制御

電気給湯器を遠隔制御 需給の調整力として利用

家庭用の電気給湯器は、電気料金の安い夜間の時間帯に翌日分の湯を沸かし貯湯するしくみだ。夜間時間帯前の貯湯タンク残湯量から、沸き上げに必要な時間を計算し、夜間時間帯の明け方側に湯沸かしを行う。電力需要が少ない夜間の時間帯の負荷を構築し、負荷平準化にも貢献してきた。だが機器の普及が進むにつれ夜間の電力需要が増え、負荷平準化につながりにくくなっている。

四国総研は、湯切れを起こさず、湯沸かしでの電気料金が変わらなければ、電気給湯器を需要負荷の調整力として利用できると考えた。太陽光発電量の多い日は昼間に電気給湯器の沸き上げを行うよう制御して、新たな昼間負荷を構築し、電気給湯器を価値ある調整力として活用することができる。

電気給湯器の湯沸かし制御

開発したシステムは、低消費電力で長距離の無線通信ができるLPWA(920MHz・LoRa)を使って、中継局から制御情報を一方向で送信。受信エリア内の需要家機器が制御情報によって自律制御するしくみだ。

制御指令は前日の午後11時までに送信する。機器側がシフト制御情報を受信し、自器が制御対象だと識別すると、夜間時間帯の湯沸かしを中止する。必要沸き上げ時間を計算してアルゴリズムによって作り出された疑似乱数を用い、沸き上げ開始時刻を決定。翌日昼間の時間帯にシフトして湯沸かしを行う。

この仕組みにより、制御対象の集合体は、太陽光発電カーブに沿った負荷を構築する。太陽光発電の余剰分を無駄にすることなく有効利用できるのだ。

前日の太陽光発電の状況から、昼間シフトを行わない場合の夜間沸き上げにも疑似乱数の制御を導入して、明け方の沸き上げ負荷の軽減も図る。

各家庭の給湯利用に影響がないよう、残湯量検知による湯切れ防止制御なども考慮した設計になっている。

シフト制御の効果

安価を実現するLPWA 基板交換で既存品にも対応

軒)の需要家を対象に実施した。制御情報を送信する中継局から30㎞以上離れた地点や、建物内などの閉所に設置した電気給湯器、中継局からの制御情報を直接受信できない住宅でも、近隣の受信制御装置(リモート制御アダプター)を経由して、受信制御情報を再送信して確実に受信。機器を適正に制御し、太陽光発電カーブに沿った負荷構築ができることを確認した。スマートメーターの検針値で動作の事後確認もできる。

LPWAの活用で、エリア内に点在する多くの給湯機器を効率よく遠隔制御でき、安価で広いエリアのカバーが実現した。大量の機器制御に適した一方向の放送型通信を用いることで、VPP(仮想発電所)のような1対1の双方向通信を必要とせず、既存設備が利用できる。容易に上げDR(デマンドレスポンス)構築が可能な装置になった。

20年10月、四変テック社はこの制御プログラムを導入した電気温水器の販売を開始。既存製品は基板の交換で対応可能になる。03年以降製造の同社の電気温水器や、ECHONET Lite対応のエコキュートが対象だ。

電力技術部の吉田正志電力利用グループ長は「電気給湯器が需給運用対策や再エネの抑制回避、普及拡大への貢献機器となり、再エネ電源を多く持つ地域でこのシステムを活用してもらいたい」と意気込む。

再エネが主力電源となり、無駄なく安定的に利用できる電源になる大きな一歩になりそうだ。