小型原子炉で豊富な実績 ロシア製SMRの抜き出た実力

2022年1月6日

【ロスアトム】

地球温暖化防止の「切り札」としてSMR(小型モジュール炉)に関心が高まっている。

ロスアトムは、原子力砕氷船での実績などから、SMR開発で他企業の一歩先を走っている。

 地球温暖化が人類の将来に大きな脅威となり、CO2を排出しない電源として、再生可能エネルギーとともに原子力発電に期待が高まっている。特に注目されているのが、SMR(小型モジュール炉)だ。高い安全性や、投資額が大型炉に比べて安価であることなどから、米ニュースケール・パワー社など欧米の企業が開発を急ピッチで進めている。

その中で、ロシア国営原子力企業「ロスアトム」は、SMRの開発で他社を一歩先行している。原子力砕氷船への搭載など、ロシアには既に小型原子炉の開発・運転で豊富な実績があるためだ。

原子力砕氷船で積んだ実績 最新小型原子炉を使用

ロシア(当時はソビエト連邦)は1959年、OK―150型原子炉(電気出力9万kW)3基を搭載した世界初の原子力砕氷船「レーニン」を就航させた。以後、原子力砕氷船は60年以上にわたり北極海航路を航行し、同国にとって、小型原子炉の効果的な商業利用の一例となっている。

原子力砕氷船に搭載する原子炉には継続的に改良が加えられ、現在は最新のRITM―200型(熱出力17・5〜19万kW)が使用されている。2020年10月、RITM―200型を2基搭載した最初の原子力砕氷船「アルクティカ」が就航。北極海の砕氷船隊に加わった。

RITM—200型を積んだ原子力砕氷船「アルクティカ」

今後、ロスアトムはアルクティカ級砕氷船の建造、運用を進める。将来は合わせて7隻が砕氷船隊に加わり、より強力な体制となって北極海航路での安全な運航に貢献することになる。

小型原子炉をSMRとして発電用などで陸上に建設、運転する計画も進んでいる。21年8月、極東のサハ共和国のウスチ・ヤンスク地区でのSMR建設に対して、連邦環境・技術・原子力監督庁が建設を許可した。ロスアトムは、この地区に陸上設置タイプのRITM―200N型(電気出力5・5万kW)を建設し、28年までに完成する計画を立てている。

ウスチ・ヤンスク地区の人口は約7000人。北極海に面した極寒の地だ。SMRの建設により、原子力によるCO2排出のないエネルギーで住民に電気と熱を供給し、大気中に有害物質を排出し環境を汚染することもない。この地域への投資を促進し、雇用を生み産業や鉱業を発展させることも期待されている。

サハ共和国では現在、石炭・ディーゼル燃料を利用した火力発電で発電などが行われている。ロスアトムは、サハ共和国でSMRプロジェクトを実施した場合、年間約1万tのCO2排出を削減することができるとしている。

ロスアトムの小型原子炉の活用で欠かせないのが、海上浮揚式原子力発電所(FNPP)だ。ロシアでは、既に小型原子炉を搭載した海上浮揚式発電所が稼働している。19年12月、原子炉KLT―40S型(電気出力3・5万kW)を2基搭載した「アカデミック・ロモノソフ」が、ユーラシア大陸の最北東端に位置するチュクチ自治区の港湾都市、ペヴェクで運転を開始した。ロシア本土の送電網から隔離されたチャウン・ビリビノ系統に送電を行っている。

アカデミック・ロモノソフは、チャウン・ビリビノ系統での電力需要の約2割を賄っている。この地域では長く、ビリビノ原子力発電所が電力・熱供給を行ってきたが今後、経年化で発電所は閉鎖されていく。それに伴い、アカデミック・ロモノソフが、地域での主力電源の役割を担っていくことになる。

SMRは極寒の地に電気、熱を供給する

工事期間を大幅に短縮 ロスアトム製のメリット

ロスアトムはRITM―200型原子炉をベースとしたSMRについて、次のようなメリットを挙げている。

①広い地域での展開 

設計上の特徴から、立地可能な地域を砂漠から北極まで、大きく拡大することができる。

②コンパクト

ほかの発電方式と比べて設置面積が最も小さく、土地資源のより効率的な使用を可能にし、周辺地域の生態系のバランスを保てる。ロスアトムが設計するSMRの設置面積は、同程度の容量を持つ化石燃料、水力、再生可能エネルギーの発電設備と比べて、大幅に小さくなる。

③モジュール化

設計がモジュール化されているため、工場内でプレハブ工法で製造できる。また量産時には高い品質を実現し、製造コストを削減することができる。結果として、資金調達コストが低減でき、顧客のエネルギー需要に応じて容量を増やすこともできる。

④工事期間の短縮

建設期間が、原子力発電産業の競争力を左右する主な要因の一つになっている。モジュール式の設計と、建設・備え付け作業の規模が小さいため、ロスアトムが設計するSMRの建設は、最初のコンクリート打設から試運転まで平均3~4年間で完了する。

⑤操作性

大規模な原子力発電所は主にベースロードで運転するように設計されているが、周波数・電力制御モードで運転ができ、最終利用者にとって効率的、経済的な発電所になる。

⑥安全性

ロスアトムによるSMRは、安全性を最優先に設計されている。RITM―200型の発電所は、最先端の第3世代以上の原子力発電所と同等の安全性を備えている。

各国が将来のカーボンニュートラルを宣言する中、今後、再エネとともに原子力発電に関心が高まることは間違いないだろう。その中で、他企業の一歩先を行くロスアトム製SMRが、世界の各地で電力供給と地球温暖化防止にどう役割を果たしていくのか、大きく注目されそうだ。