エネルギー・環境を調査した50年 社会問題の最前線に立ち続ける

2022年1月10日

【日本エヌ・ユー・エス/近本一彦 代表取締役社長

原子力や国際協力など、官民のプロジェクトを支え続けてきた日本エヌ・ユー・エス。

これまで積み重ねた50年の歩みと今後の展望について、近本一彦社長に話を聞いた。

ちかもと・かずひこ 1986年東海大学大学院工学研究科修了、日本エヌ・ユー・エス入社。2009年リスクマネジメント部門長、14年理事・新ビジネス開発本部長、15年取締役、20年から現職。

 ――日本エヌ・ユー・エスは2021年6月に創業50周年を迎えました。

近本 当社は原子力分野のコンサルティングやエンジニアリング・サービスを行う米NUSと、プラントエンジニアリング会社である日揮、東京電力の合弁会社として、1971年6月3日に創業しました。当時の主な業務は米国の原子力規制関連の情報をNUSから入手・翻訳して電力会社に提供することでしたが、発電所建設の前段階で必要になる環境アセスメントの調査も行うようになりました。

――原子力や環境問題など、創業当時と現在とでは社会情勢は大きく変わっています。

近本 原子力では、スリーマイルアイランド(TMI)やチェルノブイリ、そして福島第一原子力発電所の事故が起きました。また環境分野についても、創業当時の環境問題と言えば、イタイイタイ病や水俣病などの公害問題が中心でしたが、今は気候変動対策、マイクロプラスチックも大きく取り上げられるようになりました。

――現在はどのような事業を行っていますか。

近本 当社は海外の原子力規制情報を各社に提供し、安全性評価・解析を行う原子力事業部門に加え、環境アセスメント、温暖化対応、大気・海洋環境、化学物質、水産資源、国際条約対応などを手掛ける環境事業部門、最新IT技術と専門知識の組み合わせによるソリューションを提案するシステム開発事業―の3本柱で事業を進めています。さらに水素サプライチェーンや水素社会構築を支える水素・アンモニア関連事業やCCUS(CO2回収・利用・貯留)、二国間クレジット制度(JCM)、激甚化する災害への対策など、時代の変化に応じて、さまざまな分野の事業を請け負っています。

時代に応じた業務を実施 CCUS・JCMも

――さまざまなエネルギー・環境分野の事業に取り組まれていますが、CCUSやJCMの取り組みについてお聞かせください。

近本 まずCCUSは、これまで当社が環境アセスメントの調査を数多く行ってきたことや、法改正に従事した実績を買われ、CCS(CO2回収・貯留)の調査業務受注するようになりました。21年7月からはインドネシア・グンディガス田で行われるCCS事業を主導してきました。これはガス田の掘削井にCO2を注入しながら生産することで、CO2貯留と高効率生産を両立するCO2―EGRを行うというもので、現地企業では国営石油会社のプルタミナや学術機関などが参加し、日本側ではJパワーと日揮グローバルが参加しています。

CO2を古いガス田に注入し、ガス田に残ったガスを圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留する
出典:経済産業省ウェブサイト

――JCM関連はどうですか。

近本 当社では90年代から水力発電所や石炭・天然ガス火力の環境アセス業務のほか、クリーン開発メカニズム(CDM)の開発や組成支援をしています。その後も環境省や経済産業省、国際協力機構(JICA)などの予算を活用した環境技術導入に関する実現可能性調査も実施し、脱炭素に向けた制度構築支援や政策提言を行ってきました。中でも、最近では都市間連携の枠組みを利用した富山市と愛媛県の海外事業のコンサルティングを行っています。

 富山市ではモルディブ・マレ市と連携して、公共交通システムや再生可能エネルギー、有機性廃棄物の循環利用設備などの導入支援を行っています。昨今はゼロカーボンシティ宣言を行う自治体も増えています。地元が持つ技術を海外に展開することで、世界の省エネと経済発展を両立できます。当社としてもこうした事業を支援したいと考えています。

常に社会問題の最前線に 気の利く人材を世に提供

――今後の展望はありますか。

近本 例えばマイクロプラスチック問題は、ここ数年の間に欧州で問題提起されたことで日本でも大きく扱われるようになりましたが、当社は環境省や自治体とともに十数年前から取り組んできたテーマでした。社内では、われわれの業務は先見の明をつけ続けることだと話しています。世の中をウォッチすることで、社会問題の最前線に常に立っていることが重要です。

――常に最前線に立ち続けるためには何が必要ですか。

近本 少し高い視座を持つことではないでしょうか。日常業務を行う中で少し周囲に目配せをすることだけでも広い視野を持つことができますし、少し気の利く人材になることで、新たな仕事につながることもあります。

 これまで「エネルギー」と「環境」は異なる分野として論じられてきましたが、SDGs(持続可能な開発目標)に代表されるように社会問題はより複雑さを増してボーダーレス化しています。当社ではこうした状況下でも、若手社員を中心に横断的な取り組みが行われているのは非常に心強いと思います。また当社は技術性評価に強みのある会社でしたが、現在はLCA(ライフサイクルアセスメント)や経済波及効果など、経済性の観点も求められています。官民のニーズに応えられるよう鍛錬を積み、社会問題にコンサルティングの力で貢献していきます。