【コラム/1月26日】洋上風力発電の入札結果

2022年1月26日

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

経済産業省と国土交通省は、昨年12月24日、着床式洋上風力発電の整備促進区域である「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」および「千葉県銚子市沖」におけるFIT(Feed- in Tariff)価格の入札結果を発表したが、共同事業体「秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド」(三菱商事連合)がすべての地域を総取りしたことが注目を浴びた。同共同事業体は、「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」、で13.26円/kWh 、「秋田県由利本荘市沖」で11.99円/kWh、 「千葉県銚子市沖」で16.49円/kWhの価格を提示し落札したが、これは市場破壊レベルの価格をして受け取られている。確かに、入札上限価格の29円/kWh、2021年度の着床式洋上風力発電の固定価格買取制度価格の32円/kWhと比べると約半値またはそれ以下であり、急速に価格が低下している。業界は今後、さらに価格が一気に下がっていくのか戦々恐々としているとのことである。このニュースを聞いて思い出したのは、ドイツでの洋上風力発電の入札結果である。

同国では、再生可能エネルギー電源の増大は低炭素化に貢献しているとの評価があるものの、ますます膨大となっている再生可能エネルギー電源の支援コストが問題となっていた。そのため、支援コストの抑制のために、2017年から、FIP(Feed-in Premium)制度から再生可能エネルギー電力の販売に際して事業者に支払われるプレミアムを入札で決める制度に移行することになった。連邦ネットワーク規制庁(BNetzA)は、2017年4月13日に、ドイツの北海地区での洋上風力事業の第1回入札(上限1550MW)の結果を発表したが、落札した4件のうち3件はプレミアム0での落札であった(プレミアム0で落札した事業者は、Dong EnergyとEnBW)。また、落札価格の加重平均は、0.44セント/kWhであった。このニュースを、電力関係者は大きな驚きをもって受け止めた。当時、洋上風力発電事業者の入札上限は、12セント/kWhだったからである。その後、洋上風力発電に関する第2回の入札結果が、2018年4月27日に、また第3回の入札結果が2021年9月9日に発表されたが、最低落札価格はやはり0であった。第3回の入札では、複数の入札者が0オファーを出したため、くじびきで落札者を決めるという珍事が起きた。

事業者がプレミアム0で入札する理由を、第1回の入札例でみると、まず、プロジェクトの開始時期である2024〜 2025年までに、発電機の一層の大型化(13〜15MW)が可能となり、発電機の設置個所の減少と1基当たりの発電量の増大により、建設・運営のコスト低減が見込まれることが挙げられる。次に、今後建設される発電機を既存発電機とともに集中的に配置させることで、運営コストの低減が見込まれることが指摘できる。さらに、規制当局は、発電機の寿命を25年から30年に延長することを認めたこともプレミアム0での入札を可能にした理由として挙げられる。

しかし、これらの理由があったとしても、プレミアム0で落札したプロジェクトが実際にペイするかどうか分からない。そのため、資金調達コストが増大し、投資の不確実性が増すという指摘もある。0入札の拡大に危機感をもつ洋上風力発電事業者協会(BWO)は、資金調達コストを低減し、プロジェクト実施の確実性を担保するために、英国型の差額決済取引型固定価格買取制度(Contract for Difference Feed- in Tariff: CfD FIT)の適用を望んでいる。類似の制度は、デンマーク、イタリア、フランスでも採用されている。入札制度を巡る紆余曲折は今後もありそうだが、せっかく芽生えた洋上風力発電の完全自立への道を遅らせることはあってはならいだろう。

注目しなくてはならないのは、ドイツでは、再生可能エネルギー電源の開発リスクを、事業者が積極的にとる例が増えているという事実である。その背景には、ますます多くの事業者は、エネルギー転換はリスクよりもチャンスのほうが大きいと考えていることが指摘できる。そして、その経営マインドの変化には競争入札の導入が関係している。「リスクを取らずんば、リターンは得ず」。これはビジネス界の常識である。わが国の再生可能エネルギー業界でも、この常識がいち早く定着化するとともに、再生可能エネルギー支援のための国民負担が大幅に低減することが望まれる。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。