【特集2】脱炭素化を目指す家庭用エネ戦略 消費者行動とデータ分析に焦点

2022年2月3日

日本オラクル Utilities Global Business Unit Opower日本代表/小林浩人

カーボンニュートラルは、需要側の対応がその実現に大きく貢献する。家庭向けのIT活用による脱炭素への取り組みには、大きな可能性が広がっている。

2050年カーボンニュートラル実現へ向けた潮流が世界的に加速することを受けて、日本政府も20年10月に「50年カーボンニュートラル」を表明した。21年4月には30年度までに温室効果ガスの排出を13年度比で46%減らすという削減目標の引き上げが宣言され、21年7月には家庭部門で30年度までに13年度比で66%の温室効果ガス排出削減方針も共有された。21年は脱炭素に向けての取り組みが大きく動き出した1年となった。

しかしながらカーボンニュートラルへの道のりは長く、目標としている削減量は大きい。カーボンニュートラルに向けては再生可能エネルギーをはじめとする供給源のクリーンエネルギー化に焦点が当てられているが、現在使われている主力の電源である火力発電の供給量を賄うためのクリーエネルギー供給への転換は大きな投資と長い期間をかけなくてはならない。

需要側で三つの施策 鍵は消費者の行動

視点を変えてみるとカーボンニュートラルへの取り組みは、需要側でも大きく目標達成実現に貢献することができると考えられる。

需要側での三つの施策の柱としては、まず①さらなる省エネルギー化の推進、次に②需要の柔軟性を確保することでよりクリーンなエネルギーが利用できる時間帯への消費行動のシフトや、需要ピーク低減・平準化によるエネルギー利用の最適化と、それによるCO2排出削減、最後に③CO2排出が少なくできるエネルギーへの転換や、クリーン供給源活用を促進する電化や電気自動車採用を含む戦略的なエネルギー転換推進―が上げられる。

これらの需要側での取り組みの鍵となるのは各家庭での消費者の行動である。米コンサルティング会社のBrattle Groupと公益事業(電力・ガス・ 水道業界)に特化したソリューションを提供するOracle Utilitiesが21年10月に発表したレポートでは、40年までに電力会社の顧客が行動を起こすことで、家庭用および小型自動車部門からの温室効果ガス(GHG)排出量を、現在の政策でクリーンエネルギー供給への投資を促進するケースの約2倍削減できることを明らかにした。このレポートでは家庭の消費者による電気やガスのエネルギー効率化による省エネの推進、太陽光発電の各家庭での導入の推進、また長期的には電気自動車の導入や高効率の暖房・給湯機器への移行が脱炭素推進に向けて大きな役割を果たすと記している。

消費者行動が温室効果ガス排出に与える影響出所:Brattle Group社らのレポート

家庭の省エネルギー行動促進としては、日本オラクルと住環境計画研究所が環境省の委託事業として17~20年度に実施した「低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)等による家庭などの自発的対策推進事業」(以下「環境省ナッジ事業」)の取り組みにおいて、ホームエネルギーレポートを導入し日本における省CO2効果と、気候や地域の関連性および消費者への情報提供に対するお客さまの反応について検証した。

環境省ナッジ事業においては、最大5地域30万世帯規模の実証を行うことで平均2%の省エネ効果を確認することができた。また「ナッジ」による消費者の行動変容は、一般に世帯当たりのCO2削減効果は比較的小さいものの、多くの家庭に展開することにより高い費用対効果を上げることができ、非常に大きなエビデンスを残すことができた。各家庭に向けたエネルギー消費のアドバイスを提供するサービスを実施することによって顧客との接点を深め、エネルギー事業者に対するロイヤルティー向上に寄与することも確認することができた。

環境省ナッジ事業での成果で着目すべきはCO2削減効果という点だけではない。消費者が行動することによって得られる成果に着目し、適切な情報提供を適切なタイミングでのコミュニケーション配信をスケーラブルに実現できることによる効果が挙げられる。

例えば、直近エネルギー供給事業者が直面している課題としては需給のひっ迫に対する調達コストの増加に対する影響への対応が挙げられる。再エネによる供給が増えてくると、さらに需要に対する供給の制御を柔軟にしていく必要性が増してくると想定される。需要のピークを平準化、もしくは利用時間帯のシフトを促すための仕組みとして家庭向けに展開していくためには、機器を活用した方法や利用時間帯に応じた料金プランの展開なども挙げられる。

しかし、そもそも導入されている規模が少ない中での効果は見込めないため、まずは省エネ推進と同様に各世帯でのピーク時間帯での消費者の行動によるエネルギー利用の抑制やシフトを促していくことが重要になってくる。そして少しでもピーク時間帯のエネルギー利用の削減・シフトに興味がある消費者がさまざまな施策の利用につなげていくことができれば、全体の効果をより高くすることができるようになる。

戦略的なエネルギー転換 クリーンエネを積極活用

脱炭素に向けた需要側での3点目の施策は戦略的なエネルギー転換になる。脱炭素化を確実に展開していくためにはクリーンエネルギー化したエネルギー源を積極的に活用展開していく仕組みが必要になる。

太陽光発電の採用やクリーンエネルギーを利用する電気自動車などの導入、高効率の暖房・給湯機器への移行を含む電化の推進、より省CO2につながるエネルギー源への戦略的なエネルギー転換の推進するためには、需要側での大きな行動の変化や投資が必要となるため、需要家を増やしていくには顧客の関心を捉え、それを高めていき、採用するための障壁を減らしていき採用に導くこと、また採用した顧客が継続して満足できる仕組みが必要になる。

そのため、より脱炭素のニーズを踏まえて家庭部門に展開していくためには、各世帯の個別のニーズに合わせた情報提供をお客さまのライフスタイルやニーズを継続的に把握した上で情報発信できることが不可欠になってくる。

この鍵となるのが行動型のコミュニケーションと、AIなど処理を活用したデータ分析になる。行動型のプログラムでは単純に消費者が喜ぶような情報を提供するのではなく、全ての顧客ごとにそれぞれの事情に合わせ、関連して興味を持ち実践したいモチベーションが上がるような情報提供を、顧客側の選択の余地を与えながら行うことで、その効果を最大化させることが可能になる。

このような顧客に合わせた情報提供が可能になり顧客との接点が強化されると、新しいサービス・商品を提供する際の顧客の反応を把握しながら、効果を高めていくことが可能になる。

より顧客に合わせた情報提供を行うことで顧客の節約や満足度向上に寄与することができ、エネルギー供給事業者においてもコスト削減や複雑な製品・サービス採用増化を実現することが可能になってくる。このアプローチを活用することでよりコスト対効果が高い脱炭素への取り組みを実現すると同時に、事業ニーズに合わせた最新技術やサービスの採用を促進させることが可能となる。

行動科学の知見とAI活用 ビジネス目標達成を支援

オラクル社では、これらのニーズを満たすために行動科学の知見とAIなどを活用した分析プラットフォームと運用サービスにて、スケーラブルにエネルギー消費者のニーズに合わせたコミュニケーションを提供することで、省エネ推進、需要の柔軟性、エネルギー転換の推進を中心とした需要側での脱炭素ニーズを踏まえたエネルギー事業者のビジネス目標達成の支援に注力している。

日本においては電力・ガスの家庭用エネルギーの全面自由化が経過している中で、エネルギー供給事業者がこの中長期的な脱炭素のニーズを踏まえた新しいユーザニーズを満たしていくことはさらに重要になっていくと考えられる。それぞれのエネルギー事業者の事業戦略に合わせた目標に対して、顧客行動の変化を捉えながら最適なタイミングで適切なアドバイスを、それぞれの世帯にパーソナライズした形でスケーラブルにできるような仕組みがあれば、ニーズが多様化していく中で顧客接点強化に対する投資対効果はさらに高まってくるであろう。

こばやし・ひろと IT業界にて20年以上にわたりエンタープライズテクノロジー・アプリケーションの販売・導入に従事。現在エネルギ―事業者へのAI分析・行動科学を利用した、脱炭素推進支援や顧客エンゲージメント強化を担当。