【特集2】スマホで節電にチャレンジ 類を見ない高精度DRサービス

2022年2月3日

【SBパワー】

通信事業会社傘下で小売り電気事業を行うSBパワー。グループ企業の強みを生かした画期的なDRサービスを展開する。

2050年脱炭素化に向け、産業用部門を中心にさまざまな取り組みが加速している。一方、家庭用部門では、設備や機器などハード面での省エネは進んでいるが、一般消費者の省エネ行動にまで踏み込んだ製品やソリューションの実用例はまだ少ない。

そんな中、ソフトバンクの子会社SBパワーが展開する家庭用DR(デマンドレスポンス)サービス「エコ電気アプリ」が家庭用ユーザーの省エネ意識を高め、行動を促すだけでなく、小売り電気事業者のピークカット、SDGsへの寄与など、さまざまな付加価値を生むツールとして注目を集めている。昨年、経済産業省主催の「省エネコミュニケーション・ランキング制度」で最高ランクの五つ星を獲得。さらに、省エネルギーセンター主催の「省エネ大賞」では製品・ビジネスモデル部門で今年度新設された省エネコミュニケーション分野で「経済産業大臣賞」を受賞するなど、第三者機関からの評価も高まっている。

スマホアプリを活用したDRサービスフロー

2タップでエントリー完了 簡単に節電参加できる

エコ電気アプリは、事業者が電力需要予測からDR条件を設定、利用者にスマートフォンアプリを通じて節電依頼をかける。利用者は対象時間にエアコンの設定温度を上げ下げするなど節電に取り組み、翌日の判定結果を待つ。成功すればソフトバンクのグループ会社であるPayPayの「PayPayボーナス」が成功報酬として獲得できる仕組みだ。

利用者の操作はシンプルで、①節電タイミングがスマホのプッシュ通知で送られてくる、②通知の「参加する」をタップする―だけでエントリー完了だ。

ソフトバンクエナジー事業推進本部事業開発部の楠見嵩史氏は「ユーザーがなるべく簡単に節電に取り組めるよう、参加のスマホ操作を2タップで済むようにしました。翌日には節電結果が通知され、PayPayがすぐに獲得できるようにするなど、利用者の参加意欲が増すように、仕組み構築を心掛けました」と話す。実際、エコ電気アプリの利用者はプッシュ通知に対する反応率が高い。DRサービス参加率は31.8%に上る。「PayPayボーナスの獲得だけでなく、節電によって電気代も削減できます。そうしたメリットを感じ取ってもらえているのでは」と楠見氏。

ソフトバンクエナジー事業推進本部の楠見嵩史氏

電力事業者にとっても魅力的だ。利用者の節電がピークカットとなり、電源仕入れのコスト削減につながる。DRの設定時間は一年中可能。実施する10分前まで任意のタイミングを設定できる。さらに報酬額もその都度設定可能となっている。昨冬のような需給ひっ迫によって、日本卸電力取引所(JEPX)の価格が高騰したときなどにも活用できる。

また、DRサービスを展開するほかの事業者がベースラインを独自ルールで設定する中、同サービスではDRのベースラインが経産省の「ERABガイドライン」に準拠しており、具体的な削減量を公表している。現在、DRの参加対象者は20万件で、20年夏から21年12月31日までの期間で節電した消費電力量は約173万kW時に達した。これに伴うCO2削減量は907t。利用者にはPayPay報酬額として計953万円相当を還元したとのことだ。

中野明彦社長兼CEOが言う。「当社の約200万件の顧客データを活用した予測技術と、エンコア―ドジャパンの特許技術であるDRスケジューリングなどの組み合わせによって、同サービスが構築できました。当社が、通信事業者のグループ企業で小売り電気事業を行い、社内に有能なエンジニアスタッフを抱えているからこそ、実現できたと考えています。大規模データを扱いながら、精度の良いDRサービスは世界的にも類を見ないでしょう。参加者も増え調整量も大きくなってきているため、需給調整市場など市場への参加要件をどのように満たしていくのかの検証を進めるとともに、『電源』として活用することも視野に入れています」

SBパワーの中野明彦社長兼CEO

大手エネ事業者も採用 最終目標は1000万件

エコ電気アプリの仕組みは大手電力も採用している。九州電力は昨年2月、アプリを再生可能エネルギー活用のために導入した。これにより、下げDRで1世帯当たり1日平均で0.95 kW時の削減、上げDRで同0.36の需要創出を実現した。さらに、北陸電力が今年1月に発表したアプリ「リクプリ」に、SBパワーのDR技術を活用したサービス導入を検討している。他の大手エネルギー事業者も採用予定という。

SBパワーでは、エコ電気アプリの利用者を来年度中100万件に増やしていく計画だ。最終的にはアプリを採用する事業者を含め合計1000万件の到達を目標としている。「この規模が実現すると、真に実効性のある省エネを進めることできます」。中野社長兼CEOは、こう展望する。

通信とITの強みを生かしたエコ電気アプリ。エネルギー業界の〝キラーコンテンツ〟として今後さらに普及していきそうだ。