【特集2】290万件の電力ユーザー獲得 再エネ商材で環境メリットを訴求

2022年2月3日

インタビュー:岸澤 剛/東京ガスリビング営業計画部長

新電力事業者として国内最大規模の顧客を獲得した東京ガス。販売店組織が有する技術力・顧客対応力が大きな強みだ。

―2016年に電力、17年に都市ガスの小売り事業が全面自由化されました。6年近く経過しましたが、現在、東京ガスが獲得した電力の顧客件数と流出した都市ガスの顧客件数は。

岸澤 電力については、昨年末時点で約290万件のお客さまにご契約をいただいています。都市ガスの流失件数については、電力に比べれば少ない件数にとどまっています。

―意識するライバル企業はありますか。

岸澤 特にガス事業で着実に件数を伸ばしている大手エネルギー事業者ですね。加えて、エネルギー事業者にはない、お客さまとの接点を有している事業者の動向も注視しています。

販売店組織の存在大きい 接点機会通じて信頼を得る

―現状の評価と取り組んでいる内容について教えてください。

岸澤 電力の拡大に関しては、当社の販売店ネットワークであるライフバル・エネスタ(37法人)の存在が大きく、厳しい環境の中でも着実に進めることができたと思っています。

 ガス機器の販売やメンテナンスの際にお客さまと対面で接点を持つライフバル・エネスタの存在は東京ガスならではの特徴です。そうした接点機会を通じて、電気とガスをセットにした割安なメニューを提案しています。お客さまに対して丁寧な説明が可能で、信頼感を得やすい環境であると感じています。

―ライフバル・エネスタが扱う商材は年々変わってきているのでしょうか。

岸澤 もちろん今でもガス機器が中心であることは変わりませんが、昨今では、住設機器や電気エアコンなどの販売・修理も行っています。サービス分野では「東京ガスの修理サービス」で 、水回り分野の修理にも本格参入していきます。今後は脱炭素関係の商材も広げていきたいと考えています。

初期費用ゼロ円で再エネ エネファームでVPP利用

―脱炭素の商材として期待されている太陽光パネルについてはどうですか。

岸澤 初期費用ゼロ円で導入し、サービス料金をいただく新たなサービスモデルを進めています。新築を中心に今後拡大が期待できるサービスで、「ずっともソーラー」という名称で、さまざまなビルダーさまに採用され始めているところです。

―取り組んでいる内容が多様化されているライフバル・エネスタでは、業務が煩雑になっていると思います。現場では新しい商材を扱うことに抵抗感はないのでしょうか。

岸澤 時代の流れを受けて、事業領域を広げていきたいと思う経営者は多いです。ライフバル・エネスタがガス機器のエキスパートとしてこれまで培ってきた技術力と、地域に密着してお客さまに寄り添った対応力を生かして、取扱商材やさまざまなお困り事解決のサービスを、今後も拡大していきたいと考えています。

―従来から手掛けてきたエネファームの売り方に変化はありますか。

岸澤 現状では売り方に大きな変化はありませんが、今トライアルで取り組んでいることがあります。エネファームをご購入いただく際、VPP(仮想発電所)へ参画の承諾を得たお客さまに、エネルギー需給管理の全体最適にご協力いただいています。エネファームの出力を遠隔から制御することがありますが、インセンティブを設けてお客さまのメリットにつながればと考えています。

―デジタルの取り組みについて何かありますか。

岸澤 スマホやパソコンを使って完結するような購買スタイルへと変わってきています。その年齢層は若い世代だけでなく、40代から50代、さらにその上の世代にも広がってきています。そういった幅広い年齢層に対して、デジタル技術を使ってどうやってリアルな接点に結び付けられるかがポイントです。

 その基盤となるのが、弊社アプリを活用した会員サイト「my TOKYO GAS」だと考えています。200万件以上の会員の方にご利用いただいていますが、このアプリを使うことで、ご自身のエネルギー利用状況や請求代金をグラフで分かりやすく、ひと目で確認できます。

 また、引っ越しの際のエネルギー関連の手続きでは、入力の手間を省いて便利に手続きができます。今後、さまざまなサービスの手続きをこのアプリで完結できるように取り組んでいきたいと考えています。

 さらに、電気料金に応じて貯まる当社独自のポイントサービスも設けています。他社のポイントと等価交換できるほか、ガス機器まわりや生活まわりの商材を扱っている当社のウェブショップでの利用も可能です。

先進国・英国企業と連携 子会社通じデジタルを加速

―東京ガスは、昨年に英国企業とTGオクトパスエナジーを立ち上げました。

岸澤 われわれのリビングサービス本部の所管ではありませんが、昨年に英国企業との合弁によって立ち上げて、電力小売り事業者として、今後取り組んでいきます。お客さまへのアプローチやマーケティング手法など東京ガスとは異なるやり方で、デジタルを活用した取り組みを全国で深掘りしていきます。

 英国は、日本に比べてエネルギーの自由化が10年以上早かったこともあり、競争環境が進んでいます。そうした中、オクトパスエナジーは、独自に開発したITプラットフォーム「クラーケン」を用いて、コストや時間をかけずに、世の中のニーズに合った新しい料金メニューをどんどん作ることで、存在感を発揮しています。「柔軟なシステム設計」という面では、参考にするべき点が多々あると思います。

非化石証書を組み合わせた再エネプランを始めた

―料金メニューとして再エネ電気への取り組みはどうでしょうか。

岸澤 昨年から東京ガスが販売する電気に非化石証書を組み合わせた「さすてな電気」を扱い始めました。一般家庭のお客さまを主眼に置いたメニューでして、環境に関心の高い方を中心にお申し込みをいただいています。また、今後は事業者向けにも販売を展開し、お客さまと一緒に脱炭素社会の実現を目指していければと考えています。

きしざわ・ごう 1998年慶応大学大学院理工学研究科修了、東京ガス入社。20
12年原料部LNG契約グループマネージャー、19年総合企画部経営計画グループマネージャーを経て21年から現職。