【特集2】晴海・選手村跡地で水素供給 パイプライン整備し24年運開

2022年3月18日

【東京ガス】

東京・晴海地区再開発の目玉「水素エネルギー計画」を主導する東京ガス。水素パイプライン供給を国内で初めて商業化、2024年の運転開始を目指す。

東京五輪・パラリンピックが終了し、選手村のあった東京・晴海地区でも再開発が進んでいる。中でも水素供給事業を含むエネルギーインフラ計画には、各方面から大きな注目が集まっている。

この中核を担うのが東京ガスだ。大会期間中は選手村を走る燃料電池車やFCバスのPRに協力。大会終了後は選手村跡地に建つ大規模マンション群の地下に張り巡らされる水素パイプラインを整備する。

実用段階では日本初で、水素普及を見据えた脱炭素社会の先駆けとなる取り組みだ。将来的には再生可能エネルギー由来の電力を使って製造した水素を供給するなど、新しい街づくりへ環境、産業の両面で大きな効果が期待されている。

水素パイプライン敷設に 都市ガス事業のノウハウ

水素パイプラインの整備計画や運営を担当するのは、東京ガス100%子会社の晴海エコエネルギー(川村俊雄社長)。東京ガスは事業者側の代表窓口として、水素ステーションを運営するENEOS、純水素型燃料電池の事業者3社との間で調整を受け持つことになった。延長約1㎞の水素パイプラインには、ガス事業法を適用することもあり、東京ガスの持つ都市ガス事業のノウハウを最大限に生かす形で進める。

水素を流すパイプラインには、工場や商業ビルで使う都市ガス用の中低圧供給パイプラインを使用。曲げ性能と耐震性能の高さが特長だ。しかし、水素には「脆化」という特定の金属をもろくする性質がある。

敷設する中低圧供給パイプライン

水素パイプラインには特殊な材料が必要との見方もある中、東京ガスエネルギー企画部エネルギー公共グループの福地文彦課長は「過去に日本ガス協会で試験を行い、今回水素を供給する条件下では、脆化が起きないことが実証された。パイプには実績のある安全な材料が使われる」と話す。

水道などライフラインの工事で水素パイプに傷がつく可能性も考慮して、パイプの上から防護鉄板を敷く対策を取った。その上に標識シートをかぶせることで注意喚起を十分に行うなど、損傷防止策に万全を期している。

水素パイプラインを保護するための対策

また、地震時における水素供給の緊急停止判断基準も厳格化した。東京ガスの都市ガス供給では各地区の想定被害に応じて60~90カインに設定しているが、東京・晴海地区の水素供給では60カインで供給を停止するように設定した。

水素の供給先は、住宅街や商業施設の5カ所に設置された純水素型燃料電池となる。そこから各家庭や施設に電力と熱を送る仕組みだ。燃料電池の排熱も利用し、共用部の給湯の予熱として使われる。

燃料電池はパナソニック製と東芝エネルギーシステムズ製の二つを採用した。パナソニック製は5kWモデルの発電効率が56%と非常に高く、貯湯ユニットで熱を利用でき、約1分で起動可能な点が評価された。同社の電池を6基連結して出力アップ、住宅街での運用を予定している。

設置するパナソニック製の純水素型燃料電池

東芝エネルギーシステムズ製は100kWの純水素型燃料電池を採用。昨年11月にトヨタ自動車本社工場(愛知県豊田市)で運転を開始するなど、多くの施設や工場で稼働実績があり、今回は商業施設で運用される。

純水素型燃料電池を2種 24年3月供給開始目指す

東京大会前の19年度に第1期工事が終了し、パイプライン全体の7割は敷設済みだ。残る3割の工事や燃料電池については、今年1月以降の第2期工事で設置する予定という。

晴海エコエネルギーがガス事業法に基づく小売り事業登録を完了してから供給開始を目指すため、実際の運用は24年3月ごろを予定している。福地課長は「大会終了後、ここからまた設備工事を行い、23年度の街開きまでに無事に供給を開始できるようにしたい」と意気込みを語った。

東京・晴海地区再開発のシンボルとなる水素計画。それを支える水素パイプラインは、文字通り地区の脱炭素化を進めていくための環境インフラだ。水素社会の実現を目指した東京五輪・パラリンピック後のレガシーとして新たな都市モデルとなるか注目される。