【特集2】目指すは「ゼロカーボンシティ」 水素利活用の好循環モデル構築

2022年3月3日

【北九州市】

北九州市は、街中を走るパイプラインを使った水素利用の実証を行う。 低コスト・CO2フリーの水素をつくり、イノベーション創出に力を注ぐ。

官営八幡製鐵所の創業の地である北九州市東田地区は、近代産業発祥の地としての面影を残し、今も工業地帯の風景が広がる。環境問題に古くから積極的に取り組んでおり、現在は脱炭素社会に向け、環境と経済の好循環によって都市や企業の競争力を高め、国内外の脱炭素に貢献する成功モデルを構築するべく取り組んでいる。

産業都市の利点を生かし 水素利用に早期に取り組む

2009年、経済産業省の「水素利用社会システム構築実証事業」において水素タウンプロジェクトが発足した。岩谷産業やENEOS、東京ガスなどが名を連ねる「水素供給・利用技術研究組合(HySUT)」(当時)が主体となり、東田地区にコミュニティーレベルで水素を活用するエリア「北九州水素タウン」を構築。福岡水素エネルギー戦略会議などが協力をしながら、14年度まで水素パイプラインによる水素供給技術の実証を行った。

水素タウンエリアには、ホームセンターや水素ステーション(水素ST)、市営の博物館や居住可能な水素燃料電池実証住宅などが建つ。

実証では、東田地区が工業地帯であることが水素の調達面で奏功した。同地区にある日本製鉄が協力し、工場プロセスの中で利用している水素の一部を水素タウンまで1・2kmの長さのパイプラインで供給。水素タウンに設置した燃料電池14台を活用し、①水素パイプラインによる水素供給技術、②純水素型燃料電池などの多用途・複数台運転、③水素を燃料とするフォークリフトや燃料電池アシスト自転車、スクーターなどの走行―の実証を行った。

約4年間に及ぶ実証の後、設備は岩谷産業に譲渡。18年から引き続きパイプラインで水素を供給し、①普及型燃料電池の実証、②水素ガス不純物分析計の実証、③水素センサーによる漏洩監視システムの開発、④超音波式水素ガスメーターの実証、⑤高濃度低圧水素用ステンレス配管システムの開発―など、九つの技術実証を行っている。水素を供給し利用する実証から、社会実装に向けて水素関連の周辺機器の開発・技術実証に前進した格好だ。

一般消費者に対しても、移住希望者がお試しで入居できる水素燃料電池実証住宅に新型の燃料電池を設置。パイプラインで供給する水素を一部利用して生活してもらうなど、広く水素への関心を高めている。

響灘地区・東田地区の実証事業の概要

既存の再エネで水素をつくる 環境省の実証事業を開始

北九州市は、環境省の「既存の再エネを活用した水素供給低コスト化に向けたモデル構築・実証事業」に採択され、水素の製造・運搬・利用の実証にも取り組んでいる。20~22年度にかけて、響灘地区の太陽光発電や風力発電と、市内にあるごみ発電(バイオマス発電)といった複数の再エネの余剰電力を有効活用することで、CO2を発生させずに低コストの水素をつくり、県内各地の水素STなどに運んで利用する。

代表事業者は、北九州市が出資する地域新電力の北九州パワー。水素製造とエネルギーマネジメントシステムの開発をIHIが担当する。製造したCO2フリーの水素は福岡酸素とENEOSが東田地区の水素タウンや水素ST、久留米市や福岡市の水素STに運び利用している。北九州市と福岡県は実証フィールドの提供や関係機関の調整を担う。

一方で北九州市は、25年度までに、市内全ての公共施設約2000施設を、ごみ発電を中心とした市内の再エネ発電所の電力で100%賄うことを目指す。自家消費型太陽光発電やEV・蓄電池、省エネ機器を第三者所有方式で導入して再エネを普及する「再エネ100%北九州モデル」を推進し、全国自治体の再エネ導入のトップランナーとなることを目標に掲げている。

北九州市環境局グリーン成長推進部の玉井健司水素戦略係長は、「ゼロカーボンシティの実現に向け、北九州市のグリーン成長戦略を策定し、産業都市としての特徴を生かした、産業競争力の強化と脱炭素化を実現する好循環モデルをつくりたい」と、事業への意気込みを語る。脱炭素に向けて水素の利活用を検討している需要家側からの問い合わせに応じ、メーカーなどの参画企業をマッチングする役割も担う。技術開発のフィジビリティスタディーを支援し、イノベーション創出に向けた企業支援に力を注ぐ。

玉井係長は、「水素をつくるのは技術的に難しいことではないが、何にどう使うかが需要拡大の鍵だ」と強調する。それには水素が低コストであることが欠かせないとし、響灘地区の取り組みの重要性を説く。再エネ電力の調達コストを下げることも視野に入れ、「経済性の高い脱炭素エネルギーを市内に安定供給して、脱炭素電力の推進と、水素を利活用できる町を目指す」。それを支えるイノベーションの創出をパッケージ化して、成長を続けるアジアを中心とした海外マーケットへの展開も視野に入れている。