【特集2】再エネの余剰電力を最大限活用 国内初の水電解型EMS実証

2022年3月3日

【IHI】

低コスト、CO2フリーの水素が実現しようとしている。 北九州市響灘地区でのIHIの技術を結集した取り組みを紹介する。

産業都市であり水素の製造や需要のポテンシャルが高い北九州市では今、環境省の委託により「北九州市における地域の再エネを有効活用したCO2フリー水素製造・供給実証事業」が行われている。製造の中心となる技術は、「水電解活用型エネルギーマネジメントシステム」だ。開発を手掛けるのはIHI。ごみ発電(バイオマス)を含む、太陽光、風力といった複数の再生可能エネルギー由来の電力を制御して、水電解装置でCO2フリーの水素を製造するエネルギーマネジメントシステム(EMS)としては、国内初の取り組みとなる。

ごみ発電は電力量のコントロールが難しく、発電計画と異なるインバランスが発生するという課題がある。余剰電力を水素に変えて活用すれば、エネルギーの有効利用につながることに。また響灘地区には太陽光・風力発電の設備が多いことから、複数の再エネを同時に制御するEMSの効果が期待できる―。そんな発想が開発のきっかけになった。

実証では、ごみ発電の余剰電力を想定した消費電力指令値をベースとし、合計出力9kWのマルチレンズ風車、合計出力45 kWの追尾型太陽光発電からの電力を制御して、水電解装置によりCO2フリーの水素を製造する。太陽光や風力の電力は不安定なので、これをうまく活用するために出力50 kWの蓄電池を組み合わせる。

パイプラインで水素供給 EMSが最適制御

EMSでは、ごみ発電からの消費電力指令値の変動や太陽光・風力の変動電力に対し、水電解装置と蓄電池のどちらを割り当てるかを最適制御する。リアルタイムで蓄電池の充放電と水電解装置の消費電力の制御を行いながら、三つの再エネ電力を最大限に利用して水素を製造する仕組みだ。

実証運転では、水電解装置で10Nm3/時の水素を製造して、内容積37 m3の水素中間貯蔵タンクにためる。これを圧縮機で20MPaまで圧縮し、移動用の水素カードルに貯蔵する。1週間の実証運転で製造する水素はカードル1基分で、FCV2台のひと月分ほどに当たる。これを東田地区に運び、水素パイプラインを通じて水素タウンで活用するほか、東田地区や福岡市、久留米市の水素ステーションや物流施設のフォークリフトで利用する。

カーボンソリューションSBU基本設計部の谷秀久主査は「再エネが多い北九州市で、出力制御などの余剰分を水素に変えて活用することで、北九州市が目指す『ゼロカーボンシティ』を実現する一助にしていきたい。また、日本の脱炭素化に貢献したいと思っています」と意気込みを語った。

IHIの実証実験は2020~22年度まで