【目安箱/2月24日】原発だらけの国で初の戦争?もう一つの「ウクライナ危機」

2022年2月24日

ロシアとウクライナの軍事的緊張が高まっている。ウクライナは原子力発電にこれまで依存してきたが、それが国として軍事攻撃の脆弱性を高めてしまった面がある。

◆原子力依存度、6割弱

ウクライナをエネルギーから見ると、石炭以外にエネルギー資源はほぼなく、非常に脆弱だ。ウクライナの原子力依存度はここ数年高まり、発電に占める原子力の割合は、6割前後と非常に高い。同国にはエネルギー資源はなく、東部に石炭の産出地域がわずかにあるが、2014年以来のロシアとの紛争で、それが使えなくなってしまった。天然ガスもロシアが供給していたが、不払いなどを理由に頻繁に止められ、なかなか自由に使えない。再エネも、冬は曇天が続き、風も面する黒海は陸に囲まれ、海からの風が弱く、太陽光、風力は使いづらいとされる。

同国は旧ソ連邦構成国の1984年にチェルノブイリ原発事故を起こした。91年の独立直後に脱原発を決めたものの、結局ができなかったのは、このエネルギー供給の脆弱性が理由だ。そのために原子力が活用されたが、原子炉の大半は1980年代の建設で、チェルノブイリと同じ型の炉を改良したものだ。

ウクライナの首都キエフから北方へ、わずか120㎞ほどのところにあるチェルノブイリ原発

一方、ロシアは国策として、原子力の開発を進め、重要な輸出の商材とした。また核兵器を放棄したウクライナと違って、旧ソ連の核戦力、軍民一体の研究組織を引き継いだ。

◆国境沿いに多い原発の防衛策は?

プーチン大統領は2月22日、ロシア系武装勢力が実効支配するウクライナ東部2地域の独立を承認し、軍の平和維持軍としての進駐を命じた。そのドネツク人民共和国国境から西へわずか200キロのドニエプル川岸にサポロージェ原発がある。ここにはウクライナの持つ発電用原子炉15基のうち6基がある。

またベラルーシ国境には2ヶ所の原発にそれぞれ3基ずつ、黒海沿岸1ヶ所の原発に3基の原子炉がある。ベラルーシにはロシア軍が駐留しており、黒海もロシア艦隊が押さえている。攻撃しやすそうな状況だ。

これほど稼動中の原子炉がある国で、戦争が起こることは、これまでの歴史に類例がない。果たして、原発防衛は大丈夫なのか。

◆チェルノブイリ近郊は無人地帯

チェルノブイリ原発の事故炉そのものは、2018年にそれを覆う巨大な鉄製のシェルターで囲われている。原発では、事故後も別の原子炉は近年まで稼動し、変電所として使われている。近くの立ち入りは許可さえあれば可能で、近づくと即座に健康被害が起きる状況ではない。

ただし同原発の近郊2000平方キロはまだ無人地帯となっている。そして事故炉は、首都キエフからわずか120キロほどしか離れていない。もちもと、この地域は沼沢地で、過疎地域であった。またロシア、ベラルーシ、ウクライナ3国の国境が交わるところだった。無人地帯ということは、そこを軍隊が通りやすいという面がある。ロシア軍はベラルーシ国境に展開している。ただしキエフまでの道は放置され未整備と推定されで、道路事情は悪いだろう。

原子炉の破壊、チェルノブイリの後始末の現場の破壊という暴挙をロシア軍はしないと信じたい。しかし原発などの重要拠点を制圧するだけで、ウクライナの経済と社会を簡単に麻痺させることはできる。それをロシア軍は考えているかもしれない。

大規模な戦争が起こらないことを祈るが、今後は原発の安全保障が隠れた鍵になるかもしれない。そしてウクライナの現在抱えるリスクから得られる教訓は、一つのエネルギー源に発電を依存させることは危険であるということだ。

「一つのカゴに卵を集めるな」という昔からのリスク格言が当てはまる。その教訓は、現時点で天然ガス火力に半分強の発電を依存した日本にも参考になる。