【特集2】太陽光発電を余すことなく利用 PtoGシステムを本格展開

2022年3月3日

【山梨県】

太陽光発電の適地で知られている山梨県。その電気で水素を製造するサプライチェーンを構築した。今年4月には山梨県、東京電力ホールディングス、東レの3社による共同事業体で本格展開に乗り出す。

富士山や南アルプスに囲まれた山梨県―。3000m級の山々が雲の進入を防いでいるため、晴天の日が多く、日照時間が長いのが特徴だ。太陽光発電の設置場所としてポテンシャルが高く、県内にはメガクラスの発電所が点在している。

PtoGシステムによる水素製造拠点

そんな山梨県が現在注力しているのが水素事業だ。太陽光発電の電気を最大限活用するため、不安定な発電部分を水素製造に利用し、さらに作った水素を貯蔵・輸送するサプライチェーンの構築を目指す。2016?21年度の5年間、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証事業として、東京電力ホールディングス、東レ、東光高岳と共に開発を進めている。

水力発電のノウハウ活用 水素事業にも人材適用

山梨県のエネルギーへの関わりは古く1957年にさかのぼる。行政組織でありながら、水力発電事業を長年手掛けており、県内27カ所ある発電所(合計12・1万kW)の運営を行ってきた。担当する企業局には多くの技術系職員が在籍する。

「水素事業は、山梨大学が燃料電池の開発を積極的に行ってきたことをはじめ、水素が脱炭素化を促進する次世代エネルギーとして有望なことからスタートしました。水力発電に携わってきた技術系職員も多くいます。参画を依頼する企業には『一緒に水素事業に取り組みましょう』と声掛けをしています」。企業局電気課新エネルギーシステム推進室の宮崎和也室長はこう話す。

NEDOの実証事業では、4年をかけて太陽光から水素を製造するパワーtoガス(PtoG)システムと貯蔵・輸送する技術を開発した。同システムでは、東レが開発した世界最高効率の電解質膜を用いた固体高分子(PEM)型水電解装置を採用する。PEM型は電解の原料に水道水を利用できるため、取り扱いが容易、かつ小型で構成がシンプル、再エネの追従に適している、という特長がある。

PEM型水電解装置

実証の最終年度となった昨年6月からは、県内の半導体工場やスーパーマーケットに製造した水素をカードルに高圧充てんして輸送、水素専焼ボイラーや燃料電池に利用している。県内有数のスーパーマーケットチェーン「オギノ」では、店舗にパナソニックの純水素型燃料電池「H2 KIBOU」を2台設置。水素を原料に発電して店舗の電気として利用している。「午後1時?7時に店舗で利用しています。当社も環境問題には積極的に取り組んでおり、グリーン水素活用には関心も持っています」と向町店の長田好弘店長は話す。

スーパー「オギノ」に設置した純水素型燃料電池

PtoGの新会社設立 複数地点にシステム導入

今年3月で水素サプライチェーン実証は終了する。4月からは事業化に向けて東電HD、東レと共同事業体「やまなし・ハイドロジェン・カンパニー」を設立する予定だ。宮崎室長は「新会社を通してPtoGシステムの事業化を見据えています。また、国のグリーンイノベーション基金事業の第1号案件として140億円支援してもらい、山梨県と民間企業7社によるコンソーシアムをつくります。大規模PtoGシステムを国内の複数地点に作り事業化する方針です」と語る。山梨発の再エネ水素技術がいち早く全国に普及していきそうだ。

半導体工場に設置した水素専焼ボイラー

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山梨県のPtoG実証をはじめ、北九州市のパイプラインを使った水素利用実証、豪州から液体水素を輸入など、水素サプライチェーン構築に向けた動きが活発だ。本特集では、そうした事例を取り上げていく。