【記者通信/3月7日】人為起源を強調したIPCC報告で考える「軍事」のタブー

2022年3月7日

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2月28日、オンライン会議を通じて最新の研究結果に基づく議論を行い、気候変動がもたらす自然や社会への影響に関する報告書を8年ぶりにまとめた。

報告書は、気候変動の要因として「人為起源」を改めて強調。地球や太陽の活動が原因とする説も根強い中、「人類が引き起こした気候変動は、自然と人間に対して広範囲にわたる悪影響と、それに関連した損失と損害を引き起こしている」と結論付けた点が注目される。さらに地球の平均気温が1.5℃を超えて上昇した場合、多くの自然・社会的システムにおいて「適応の限界」に達し、「一部は不可逆的なものになる」と警鐘を鳴らした。

山口壮環境相は3月1日の閣議後会見で、「今回の報告書では、気候変動への適応策の推進、気温上昇を1.5℃に抑えるためのより一層の緩和策の重要性が改めて示された。こうした最新の科学的知見を国内の気候変動対策に反映させながら、適応と緩和、両方の取り組みを国内外で一体的に推進していくことが必要だ」との見解を示した。

また世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之・気候エネルギー海洋水産室長は、本誌の取材に対し、「地球温暖化は避けられない」とした上で、「これからはどう温暖化に適応していくかが問われる。また、途上国の気候変動による被害についても考えていかなければならない」と指摘した。

国家安全保障の大義に霞む「軍事起源」

IPCCが人為的温暖化問題の深刻さを改めて打ち出す一方で、世界的にはロシアとウクライナの戦争が激しさを増している。国家安全保障という大義の前では霞んでしまいがちだが、戦闘機やミサイルといった軍事兵器によって、どれほどのCO2や汚染物質が大気中にまき散らされていることか。そもそも、施設などの破壊や市民の殺害行為は、現代社会が目指すSDGs(持続可能な開発目標)に、完全に逆行するものだ。

世界中の大量軍事兵器がもたらす地球環境への悪影響については、国連の地球温暖化防止国際会議(COP)などで重要テーマに上がってもいいはずだが、国際政治の下では「不都合な真実」なのか。真剣に議論される気配すらない。いずれにしても、今こそ環境NGOは気候変動対策の観点から「反戦」を訴えるべきだろう。人類への脅威で見れば、石炭火力の比ではない。まして、CO2排出の観点から飛行機に乗ることを問題視する「飛び恥」など、世界主要国が戦闘機やミサイルを飛ばしまくる現実の前では、どうでもいいことのように思えてならない。