【コラム/3月8日】エネルギー資源価格上昇の経済運営を考える〜基本は縮小均衡調整、エネ対策で原子力発電利用拡大が必須

2022年3月8日

飯倉 穣/エコノミスト

1,新型コロナ感染防止対策の進展(ワクチン接種、治療方法改善等)を背景に、行動制限緩和があり、欧米で景気回復が見られる。回復に伴う需要贈、気候変動対策の影響(投資減)等で、21年下期以降エネルギー資源価格が上昇している。且つロシアのウクライナ侵略の影響も憂慮される。報道は、内外の懸念を伝える。

「米インフレ止まらぬ勢い 消費者物価1月7.5%上昇 高い賃金・原油 見通し押し上げ」 日経22年2月11日、「原油高・見えぬ賃上げ 焦る首相 コロナ禍かじ取り難しく」(朝日同)、「原油100ドルインフレ拍車」(日経2月25日)

米国の消費者物価上昇は、供給サイドの制約に加え、サプライチェーン等の人手不足を契機とする賃上げも目立つ。エネルギー価格上昇、供給制約、デマンドプルの下で、物価見合い賃上げとなれば、インフレ以上にスタグフレーションの足音が忍び寄って来る。

日本の道筋は、視界不良である。資源エネルギー価格上昇、輸入物価、企業物価、消費者物価の動向から、今後の経済運営を考える。

2, 昨年(21年)の輸入額(24%増、財務省貿易統計)は、鉱物性燃料(1.5倍)、原料品(1.5倍)の他、化学製品、原料別製品、電気機器等押し並べて輸入増であった。為替安も一因だが、それ以上に単価の上昇がある。とりわけエネルギー価格は5割以上の値上げである。本年1月も1.8倍の価格上昇(昨年同月比)で輸入額も1.8倍である。

故に輸入物価(指数)は、昨年23%上昇(前年比)している。本年1月は、前年同月比38%アップである。石油・石炭・天然ガス輸入物価上昇が顕著である。

国内企業物価(指数)は、昨年約5%上昇(前年比)で、本年1月は、約9%上昇(前年同月比)である。石油・石炭製品(前年比28%)、木材・木製品(同29%)、鉄鋼(同13%)、非鉄金属(同29%)、化学製品(同9%)等の上昇が顕著である。1月も、石油・石炭製品等の上昇が大きい。

消費者物価(指数)は、昨年通信費下げの特殊事情で△0.2%減である。昨年末から電気・都市ガス等エネルギー料金上昇で1月は約20%上げ(前年同月比)、本年1月の総合指数は0.3%上昇となった。このようなエネ・資源価格高騰による物価上昇を背景に賃金の引き上げが話題になっている。又ガソリン価格高騰で、需要家への支援も昨年後半から始まっている。どう対処すべきか。

3,我が国は、第一次オイルショック時にエネルギー資源価格の上昇に直面した。その経験をまず想起したい。第一オイルショック当時、石油の価格上昇に伴う輸入物価の上昇に加えて、千載一遇のチャンスとばかりドサクサ紛れの価格上乗せで、消費者物価(1974年23.2%増)を異常に押し上げた。そして賃金の高騰(ベア73年20.1%、74年32.9%)を招いた。その当時下村治博士は、原油価格の上昇で輸入物価の高騰はあるものの、消費者物価20%強の上昇は、ほとんどが便乗値上げである(上乗せを除けば本来6%程度)。便乗による物価高騰は、時間がたてば需要縮小で元に戻る。故に賃上げ時期を先延ばし、コストプッシュインフレを回避すべきと指摘した。政府は、この考えに沿って賃上げ交渉時期を繰り延べた。75年消費者物価上昇は平均で11.7%に低下、賃上げも13.1%にとどまった。これが功を奏し、他の欧米諸国が陥ったスタグフレーション突入を回避できた。

4,当時、経済の動きは、原油供給量(輸入量)に合わせた生産水準と原油価格上昇対応に伴う需要縮小等で縮小均衡となり、経済成長率は戦後初のマイナス成長となった。つまり輸入量の制約や輸入物価の上昇、とりわけエネルギー資源価格の上昇は、我国に需給調整能力がないため、甘受せざるを得ない。それが国内物価を上昇させるならば、経済は、縮小均衡調整を余儀なくされる。

今回も同様の対応が賢明であろう。輸入物価・企業物価上昇に伴う消費者物価上昇に合わせた賃金インデクセーションをせず、賃金は、生産性上昇に合わせることが基本である。

また政府施策でガソリン価格高騰対策として元売り事業者に補助金を交付し販売価格を抑制している。野党の石油税のトリガー条項発動要求対応で追加支援策も登場している。ばらまき合戦である。石油需給・価格は、国際市場の視点で考える必要があること、日本は無資源で国際環境適応宿命国であり、価格高騰は需要縮小等で対応せざるを得ないことを踏まえれば、全く不要な政策である。適正な価格転嫁の有無を監視するだけで十分である。

5, 国際的なエネルギー価格の上昇・下落は、需給状況に加え、国際的なカルテル(生産調整)、投資制約、資源国の政治情勢等を背景としている。それに金融投機や地政学リスクが加味されると極端な騰貴を生起する。我国の国際エネルギー市場への関与は、限定的である以上に無力近い。国際エネルギー価格上昇には、当面輸入価格の受容、円滑な価格転嫁、価格上昇に伴う需給調整で対応せざるを得ない。

ここで重要なことは、国内の生産水準維持に必要な量を購入できるという購買力(支払い能力)である。故に経済運営上国際収支とりわけ貿易収支の問題が重要である。貿易赤字に陥らない工夫(一定の黒字確保)がいつも必要である。

その対策として、第一オイルショック後は、短期的には省エネ、生産水準の引き下げ(縮小均衡調整)、中長期的には代替エネルギーの開発,産業構造の転換が解であった。価格効果を前提とする企業行動とその誘導政策である。現在は、化石エネルギー利用の制約問題もあり、原子力発電利用が、益々日本経済運営の鍵となる。その議論が消えていることに問題がある。政治主導思考の限界である。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。