東京ガス「Compass Action」の全容 需要家と連携深め脱炭素化に挑む

2022年4月3日

東京ガスが昨年11月に発表したCompass Action。脱炭素戦略を描く高い理想を掲げた野心的なロードマップだ。

2019年11月、東京ガスがグループ経営ビジョンとして発表した「Compass2030」。ガスを商材にする企業でありながら「CO2ネット・ゼロ」に向けた取り組みを明確に示したことで、エネルギー業界に大きなインパクトを与えた。

そして2年後の21年11月には、東ガスグループとして取り組むべき具体的な道筋を示した「Compass Action」を策定した。30年までをトランジションの加速期と位置付け1700万tのCO2削減目標を掲げる。そして、その先の50年までにカーボンニュートラル(CN)の実装に駒を進める。このアクションの要諦は次の三つだ。

一つ目はガス体のみならず再生可能エネルギーとの両輪で「CO2ネット・ゼロへの移行をリード」していくこと。ここでは、同社として複数のトランジション手段を扱うのがポイントだ。既存インフラとなるLNG基地やガス導管を徹底的に活用し、石炭や石油からの燃料転換を促す。加えて、メタネーションの実用化を通じカーボンニュートラルメタンの導入を拡大することでCO2を削減する。また、再エネの取扱量を30年までに600万kWまで増やしていく。さらに、ガス火力運用によって、再エネ調整電源としての機能を高めていく。再エネ拡大を支えるための一つの手段だ。燃料として、CO2を排出しない水素やアンモニアなどを活用することを検討しつつ、発生するCO2に対しては、CCUS(CO2回収・利用・貯留)の実用化を目指す。

二つ目が「価値共創のエコシステムの構築」だ。デジタルシフトとリアル補強の両輪で価値創出を加速する。このリアル補強とは、ガス業界の強みでもある対面の事業モデルのこと。検針、ガス機器・設備の保安点検など、家庭用から大口需要まで、多様なユーザーとの接点機会が多いガス事業者ならではのリアルな接点を活用する。そこに、デジタル技術を使って新しい価値を創出する。

三つ目が「LNGバリューチェーンの変革」だ。これに向け各事業主体の稼ぐ力・変動への耐性を向上していく。

場面ごとに多様な役回り ユーザーとの二人三脚

大きな理想を掲げながらも、『「理想形」=「現実解」』となる勝利の方程式に向かい、実際にユーザーとのフロントエンドに立つ営業人員はどのようなメンタリティで挑むのか。

「従来からの取り組みが、根本的に変わることはないと思っています。ただニーズは多様化し、その変化のスピードも増しています。そうした中で、お客さまと一緒に課題を解決してきた従来からの姿勢を、一層深掘りすることになると思います。あるときはエネルギー供給事業者やサービス事業者、別のときはアドバイザーでありコンサルタントというように、場面ごとに多様な役回りを果たすことになると思います」。都市エネルギー営業部公益営業部の星博善法人第二統括部長は話す。

そんな事例が早速始まろうとしている。東ガスは、六つの医学部附属病院を運営する学校法人順天堂と新たな取り組みを開始した。今年1月、CO2削減ロードマップを一緒に策定することを発表したのだ。ユーザーのロードマップ策定を、エネルギー事業者が支える、まさに二人三脚の事例だ。この第一歩として、順天堂医院では、CN都市ガスを採用することになった。東ガスにとって、医療機関向けのCN都市ガス供給は初めてだ。東ガス子会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズのコージェネを使ったエネルギーサービスを通じて、これまで築き上げてきた両者の関係が、次のステージへと発展した一例である。

「コロナ対応に尽力し、″事業継続〟こそが最優先課題の医療業界ですが、病院という公益性の高い業種であるが故に自らCO2削減に取り組む姿勢を示した順天堂さまには感謝しています」(星部長)。もともと医療機関は熱需要が多く、コージェネとの相性は抜群だ。実際、順天堂医院でも十分な役割を果たしてきた。そんなコージェネも「今後の脱炭素に向け、運用の多様化のポテンシャルを多分に秘めています」(星部長)。

潜在力秘めるコージェネ デジタル技術で価値創造

一つはスマートエネルギーネットワークの視点である。コージェネを核にしながら周辺一帯の熱電をスマートに供給する取り組みだ。例えば、栃木県清原工業団地では、キヤノンや久光製薬、カルビーといった名だたる工場群のエネルギーをまとめて供給する事例が始まっている。そして、このケースでは驚くべきことに20%近くの省エネを実現している。個別に取り組んでいては達成が非常に困難な省エネ率だ。こうした東ガスの取り組みを筆頭に、スマエネ事例は全国に少しずつ広がっている。

もう一つは再エネ共存の視点だ。再エネが増えるほど、電力需給調整機能が大切になる。そんな出力変動する再エネの欠点を、コージェネの負荷調整機能によって支えていく運用だ。さらには電力市場を見極めた運用の可能性もある。仮に日本全体で電気が足りない局面に陥ったとき、コージェネの発電力が電力市場で貢献する。そんな役割の期待値も高まっている。

こうした新しいステージでの役割はデジタルによっても果たされようとしている。東ガスはこのほど、「Joyシリーズ」と呼ぶソフトウェアを事業譲受し、同社独自の中央監視サービス「0wl net」に組み込んだ。Joyシリーズは21年時点で3万8000件の顧客実績を誇る。これを使ったデジタルソリューション、0wl netとはどのようなものか。「お客さま側のエネルギー設備を統合監視する機能に加えて、当社が監視データを分析することで、継続的に省エネや省力化のソリューションを提案できます。また、電子帳票や遠隔監視カメラなど、ニーズに応じて多様な機能を提供します。例えば、導入していただいた自動車部品工場では40%の業務改善につながったとのありがたい声もいただきました」(産業エネルギー営業部北部産業エネルギー部の中尾寿孝グループマネージャー)

中尾さんによると、今後はエネルギー設備だけではなく工場の生産設備、各拠点のデータを本社一括遠隔監視するなど適用範囲を拡大することで、0wl netを企業全体の脱炭素や生産性向上の基盤となるサービスとして発展させたいとしている。デジタル技術を通じて新しい価値を創出する取り組みとして、ユーザーからの期待が高まりそうだ。

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こうした取り組みを通じてにじみ出てくるのは、社会コストを抑え安定供給を絶やさず、地に足の着いたCN社会へ移行しようという東ガスの決意である。次ページでは「これからの街づくり」にフォーカスした座談会をお届けする。CN都市ガスやコージェネがどのような役割を果たすべきか、有識者や業界関係者が議論する。