東ガス&丸熱 カーボンニュートラルな街づくり 理想形を現実解にする業界の挑戦

2022年4月3日

カーボンニュートラルに対して世の中の意識が日に日に高まっている。堅実なトランジションに向けて業界に何が求められ、どのように取り組むのか。

【左】柏木孝夫(かしわぎ・たかお)東京工業大学特命教授・名誉教授/1970年東工大工学部卒。東京農工大大学院教授、東工大大学院教授を経て、2009年から先進エネルギー国際研究センター長、12年から現職。
【中】川村俊雄(かわむら・としお)東京ガスエネルギーソリューション本部エネルギー企画部長/1994年東京大学工学部化学工学科卒、東京ガス入社。LNG基地、原料調達、気候変動対策等担当部署を経て、2021年4月から現職。
【右】岡本敏(おかもと・さとし)丸の内熱供給取締役常務執行役員/1986年三菱地所入社。ビル運営管理に25年以上従事。三菱地所プロパティマネジメント常務執行役員などを経て、2021年から現職。

柏木 業界にとってカーボンニュートラルの取り組みは不可欠ですが、まずはリアリティーのある取り組みが必要になります。その中で街づくりに関わる熱供給事業は即効性のある省エネに貢献します。まずは丸の内熱供給(以下、丸熱)さんの昨今の取り組みについてお話しください。

岡本 熱供給事業者として脱炭素に向けて、今後どのような取り組みをするべきか考えてきた中で、1年前に当社と三菱地所で「エネルギーまちづくりアクション2050」を策定しました。地域冷暖房ネットワークを核に「面的エネルギーによる強靭化」「脱炭素化に貢献する都市型マイクログリッド構想」を掲げ、環境価値と社会経済活動の最大化に向けて街づくりを支えていこうと考えたわけです。特に大丸有エリア(大手町・丸の内・有楽町)には国際的に活躍する企業が多く、業務の継続力やエネルギーの脱炭素化に対して関心が高いエリアです。そうしたニーズにエネルギーマネジメントで応えたいと考えています。

 ここでのポイントは三つあります。一つ目は「供給マネジメント」です。当社でも一部で熱電一体供給を行っていますが、今後、大規模にそういった展開を広げていきます。二つ目は「需要マネジメント」です。新築や既存のビルそれぞれのエネルギー消費効率の向上です。三つ目が「つなぐ・事業マネジメント」です。大丸有エリアではスペース的に太陽光発電の設置が難しいため、地方と連携し、例えば地方のバイオマス発電とつなぎ、その再エネ電力を調達する。また、個別コージェネの排熱利用もあります。個別のビルでは排熱を活用し切れませんので、われわれの方で受け入れて、それをつないでネットワーク化する。こうした面的利用によって環境価値やBCP(事業継続計画)あるいはDCP(地域継続計画)に貢献していきたいと考えています。

スマエネ運用の高度化 省エネは脱炭素技術

柏木 東京ガスで昨秋に発表した「Compass Action」では、地に足の着いたリアリティーのある計画を打ち出しています。

川村 はい。当社グループが一体となって「CO2ネット・ゼロ」に向けて、ガス体と再エネの両輪で責任あるトランジションをリードしようと考えています。ポイントとしては、ネット・ゼロという高い理想を掲げつつも、エネルギーの安定供給を維持し、地に足の着いた現実感のあるカーボンニュートラル社会への移行を主導していきたいと考えています。

 具体的には一丁目一番地である天然ガスの高度利用として三つの取り組みを掲げています。一つ目は燃料転換です。全国的には産業用を中心に、石炭や重油の利用がまだまだ残っていますので、まずはガスへの燃料転換を進めていきます。二つ目が、スマートエネルギーネットワークです。田町、豊洲、あるいは工場群のエネルギーをまとめて運用する栃木県清原工業団地など、既に具現化した事例があります。こうした街づくりの観点からスマエネ運用の高度化が大切になります。三つ目が、CO2クレジットを使ったカーボンニュートラルLNG(CNL)による都市ガス(CN都市ガス)の供給です。この延長に、CCUS(CO2回収・利用・貯留)や合成メタン供給へとつなげたいと考えています。

 スマエネについて補足しますと、その要諦は、CN都市ガスを含む環境性と、防災性を両立することだと考えており、ポイントは五つあります。まずは「①コージェネを配置」し、それを「②面で使い」切る。さらに「③再エネや未利用熱エネルギー」を使う。未利用エネとしては地下のトンネル水などが該当します。加えて、「④DR(電力需要制御)を含めたICTによる需給連携制御」です。そして、これらのエネルギー供給のベースとなるのが「⑤ガス導管の強靭性」です。この中圧・高圧ガス導管は東日本大震災クラスの災害でも、その機能が担保されたことはご記憶の通りです。

 こういった五つの視点を組み合わせてスマエネをさらに進化させていくことが、地に足の着いたトランジションであるという意識の下で取り組んでいきます。

柏木 最近では大規模なビルで、電力会社がコージェネを導入するケースが生まれています。虎ノ門ヒルズもその一例です。コージェネを導入しないと建物としての価値が認められなくなっている時代です。またコージェネ自体の発電効率も高まってきており、導入すれば20%ほどは確実に省エネになります。同時にこれは省エネだけでなく、脱炭素テクノロジーというような言い方もできると思います。オフセットされたCN都市ガスによって、脱炭素社会への近道となるテクノロジーだということです。こうした取り組みは、従来の「物売り」から「ソリューション売り」の展開にもつながっていくと思います。

川村 おっしゃる通りです。ちょうど当社も、従来のエネルギーを中心に販売する会社から変わっていこうとしています。当社は4月からホールディングス型グループ体制へ移行しますが、その際法人営業部門は、地域冷暖房事業やエネルギーサービス事業を手掛ける100%子会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)と一体となってお客さまにソリューションを提供する体制になります。ガスや電気の供給、さらにはエネルギーサービスをソリューションとしてワンストップで提供していくわけです。

設備改修と運転制御改善  CN導入の第一歩

岡本 川村さんが先ほど、地に足の着いた取り組みとおっしゃいましたが、全く同感です。当社も、まずはプラントの高効率化・省エネに取り組んでいます。例えばターボ冷凍機の軸受けの改良、ポンプや冷却塔のインバーター化、あるいは高効率な小型貫流ボイラーへの更新などです。また、先般、新菱冷熱工業さんと一緒に、設備をAI制御する取り組みを発表しました。4%の消費電力削減を達成しました。このように大きな設備更新、あるいは設備の改良による効率化、運転の制御の高度化などを同時並行的に進めています。

 あと、既存のエネルギーインフラをいかに有効に活用するかも重要な視点です。その意味で、既存インフラを活用できるCN都市ガスの導入は意義のある取り組みだと考えています。需要家さんだけでなく、需要家さんのビルに入居しているテナントさんも非常に環境意識の高い企業さんが多く入居しているわけです。であるならば、同じ都市ガスでも環境に優しい都市ガスということで、昨年11月に当社は全量をCN都市ガスに切り替えました。

 現状、一連のコスト増加分は当社で負担しています。今後、需要家さんにどのようにご負担いただくか課題になるかと思いますが、まずはCN都市ガス・CN熱の存在をしっかりと周知しているところです。

川村 この件については、改めて丸熱さまに感謝申し上げます。個人的な話になりますが、1年前までは原料部に所属しており、まさにCNLの調達に携わっていた当事者でして、CNLには思い入れがあります。3年ほど前に、海外のLNGサプライヤーからこの商材の提案があったとき、当社の営業部門に相談に行きました。「果たしてお客さまに届けられるのか」。社内で議論を重ね、お客さまとも話し合いを進めていく中、丸熱さまにご理解をいただき、日本で初めてCN都市ガスを採用いただきました。

 おかげさまで今では60社を超えるお客さまにご利用いただいており、その過程で「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」を設立し、まずは周知に向けて取り組んでいるところです。

 なお、オフセットするCO2クレジットは、現状では制度的に担保されたものではなく、あくまでも企業自らがボランタリーで取り組んでいるものです。国の制度や国内法制面で、CO2削減カウントとして扱われるようにするためには、国際的な枠組みを見据えての働きかけも必要になるでしょうから、ハードルはあるかと思いますが、まずは自分たちでできること、繰り返しになりますが、地に足の着いたトランジションへの取り組みということで、第一歩を踏み出したところです。

 また、クレジットの品質面の担保には特に注意を払っています。第三者機関からの認証を得た信頼性の高いものであることに加え、クレジットの起源となる環境プロジェクトについても十分確認するよう努めております。

丸の内熱供給はCN都市ガスを導入した

岡本 当社としてはCN都市ガスの燃料面での取り組みだけでなく、設備面でも環境性に優れた設備の導入を促進しています。例えば燃料電池については、三菱地所が丸の内ビルディングに導入した三菱重工業製のSOFC(固体酸化物形燃料電池)の排蒸気を当社が受け取り、街区へ融通することで、機器の導入効果を高める取り組みを行っています。あと、今後検討するのは蓄電池ですね。「荷重の重い設備」になりますので、導入するのであれば、どうしても新築のタイミングが理想的ではありますが、屋内設置の場合の安全性の確保、消防法との兼ね合いなどを考えながら新築・既存とも蓄電池の導入を検討しています。

柏木 今後のイノベーションの一つとして水素利用が挙げられます。東京ガスの水素に対する取り組みを簡単にお話しください。

水素利用へのチャレンジ 排熱とCN熱の制度課題

川村 業界としては既存インフラの有効活用の点で、合成メタンを第一目標としています。ただ、その合成メタンを作るにも水素が必要ですし、当社としても、水素サプライチェーンの一部となる水素製造面など、要素研究には既に取り組んでいます。また、エリアが限定されるかもしれませんが、大規模なコンビナート地帯での水素供給・水素利用というやり方もあるかもしれません。実際、東京の晴海地区では、水素の直接供給について取り組む予定です。

 この晴海地区では二つの側面があります。エリア内にある集合住宅のご家庭には都市ガスの燃料電池エネファームが全戸(約4000戸)に導入されます。一地点に4000台の規模ですから、まとめて運用するVPP(仮想発電所)のような展開への可能性も秘めています。

 それから集合住宅の共用部に純水素型の燃料電池が入ります。この水素供給は非常にチャレンジングな取り組みです。近隣の水素ステーションを拠点に水素導管を敷設します。水素パイプラインにより街区へ水素供給する初めての事例となります。水素の安全をしっかりと確認していくという意味でも、大きな挑戦だと考えています。

 このように合成メタン一本足ではなく、水素についてもいろいろとチャレンジしているところです。

柏木 先ほど、川村さんからCO2クレジットにおける国内制度での扱われ方の課題についての指摘がありました。岡本さんからも何か制度的な課題はありますか。

岡本 先般、東京都に対して意見表明をさせていただきましたが、コージェネを使ったときの排熱利用についての課題です。排熱を有効利用している一方、現状の基準では、排熱を活用すればするほどプラントのエネルギー消費効率が下がってしまいます。排熱といった未利用熱を活用する場合の評価を制度的に認めていただきたいと思います。

 あとCN熱の課題があります。例えば熱供給事業者が、再エネ電力100%で熱を製造しても、それはカーボンフリーの熱とは認められていません。時代に即した制度設計をしていただけたらと思います。

柏木 皆さんの取り組みがきちんと評価されるような制度設計が必要です。ありがとうございました。