【緊急インタビュー】資源小国・日本が直面する国難 「台湾有事」も視野に自給率向上を

2022年4月4日

インタビュー:高市早苗/自民党政務調査会長

聞き手:井関晶/本誌

エネルギー資源大国のロシアがウクライナに侵略したことで、世界のエネルギー情勢が緊迫化の様相だ。資源小国のわが国は、この局面にどう立ち向かうのか。自民党の高市早苗・政務調査会長を直撃した。

たかいち・さなえ 1961年生まれ。神戸大学経営学部卒。経産副大臣や総務相などを歴任。2021年秋の衆院選(奈良2区)で9選し、現在は自民党政務調査会長。

―ウクライナ危機を踏まえ、日本のエネルギー政策の課題について、どうお考えですか。
高市 ウクライナ危機で改めて痛感したことは、国連安保理で拒否権を持つ国が「外交」を支配し、核兵器を持つ国が「軍事」を支配し、資源を持つ国が「経済」を支配するという、世界の現実です。
そのいずれも持たないわが国が、どのように生き残りを図るか。これが今、コロナ禍、ウクライナ危機、エネルギー価格高騰という、三つの国難に直面する日本に突き付けられた、重大かつ深刻な課題になっています。
 まずは世界の現実を直視した上で、従来の「平時」を前提とする発想から脱却し、常に最悪の事態を想定しつつ、リスクを最小化するための備えを講じていく。とりわけエネルギーを巡る課題は、国内でも現在進行形で進んでおり、喫緊の対応が求められます。
 今回のロシアによるウクライナ侵略への各国の対応と、欧州のエネルギー情勢を踏まえれば、エネルギーの安定供給の確保に向け、あらゆる選択肢を活用可能な状態にしておくべきことは、論を俟ちません。四方を海に囲まれ、自然エネルギーを活用する条件が諸外国と異なるわが国においては、なおさらのことと考えます。
 今後、あらゆる化石燃料の調達について、資源外交などを通じ、権益の確保や調達先の多角化を一層推進することが必要です。中でも、台湾南部のバシー海峡を通過する割合は、原油で9割、LNGで6割に達しており、仮に台湾有事が発生した場合、ロシアからの輸入の比にならない量の燃料供給が途絶することになります。従って、再生可能エネルギーの導入や、原子力発電の再稼働などによるエネルギー自給率の向上に取り組むことが重要です。


安全性最優先で原発再稼働 SMR開発に大きな期待

―エネルギー政策では脱炭素化に加え、安全保障の重要性が一段と高まっています。
高市 再エネはエネルギー自給率の向上に寄与するので、系統整備などを推進し最大限の導入を目指していきますが、発電が自然条件に左右されることから、蓄電池や他の電源との組み合わせが不可欠です。その点、原子力は数年にわたって国内保有燃料だけで発電が維持でき、かつ脱炭素のベースロード電源であることを踏まえれば、重要な電源として活用していくべきだと考えています。こうした観点から、地元の理解を得ながら、安全性を最優先に原発再稼働を進めていくことが必要です。
 今後、わが党においては火力発電も含め、あらゆる選択肢を追求してエネルギー安定供給の確保を実現すべく、私が本部長を務める経済安全保障対策本部や、総合エネルギー戦略調査会(額賀福志郎会長)などを中心に政策議論を深めていきます。

実用化への期待が高まるSMR(米ニュースケール社)

―現在「クリーンエネルギー戦略」の議論が官邸主導で進んでいます。その柱の一つに原子力の技術開発が位置付けられています。
高市 原子力技術開発では、国際連携を活用した高速炉開発の着実な推進、小型モジュール炉(SMR)技術の国際連携による実証、高温ガス炉における水素製造に係る要素技術確立について検討を進めているところです。
 SMRを巡っては、「小さな炉心を生かし、自然循環を利用したシンプルな安全システムを採用しており、ヒューマンエラーや危機故障を回避できること」「モジュール生産による品質管理の容易化と工期短縮によって、初期投資コストが小さいこと」など、大きなメリットが期待されています。
 IHI、日揮グローバル、日立GE、三菱重工業などの日本企業が開発に携わっており、国産技術としての期待も高い。世界の革新炉開発の潮流に乗り遅れることなく、国際プロジェクトに日本企業が効果的に参入できるようにしていくべきだと考えています。

再エネは法令順守が大前提 不適切事案を未然に防ぐ

―一方で再エネは、山間部などにおける乱開発が全国的な問題となっています。
高市 再エネ事業についても、他のエネルギー事業と同様、法令を順守して適正に事業を行うことが、地域での信頼を獲得し、長期安定的に事業を実施するための大前提になると考えます。電気事業法では、設備の安全性を担保する基準と自治体が定めた条例を含む関係法令を順守することが、事業者に求められています。違反があった案件については、指導や命令を行い、改善が見られない場合は罰金や認定を取り消すといった、厳格な対処を行わなければならない。既存のルールで対応できない不適切な事例があれば、ルールや審査を厳格化し、次なる不適切事案を未然に防いでいくことも必要です。
 私の地元・奈良県においても、太陽光発電設備の設置計画に対する反対運動が、複数地域で起きています。太陽光発電のためにみだりに森林伐採が進めば、自然環境や景観への影響、土砂流出による濁水の発生、CO2吸収源としての機能を含めた森林の多面的機能への影響が懸念されます。環境に適正に配慮し、地域における合意形成を丁寧に進めることで、適切な再エネの導入を進めていくことが不可欠です。
 2050年カーボンニュートラル社会の実現を目指す中で、今後はこうした課題に真摯に向き合い、導入に適した場所の確保、自治体との連携を強化した事業規律の確保、コスト低減に向けた研究開発に取り組んでいく必要があると考えています。