【目安箱/4月12日】急務の原発再稼動 なぜ岸田首相は動かないのか?

2022年4月12日

原子力をめぐる雰囲気が変化している。感情的な原子力の反発は少なくなり、SNSなどでは原子力の活用を主張する声が強まり、政治家も原子力発電所の再稼動を語るようになった。昨年からのエネルギー価格の上昇に加えて、ウクライナ戦争による国際市場の混乱、福島沖地震をきっかけにした東日本における大規模な停電危機が「自分事」として人々の考えを変えたようだ。しかし、その声に応えるべき岸田首相の動きは鈍い。

◆政府に見られない「反省」

「107%」。これは3月22日に記録した電力の使用率だ。供給率に対する需要の割合が100%を超えた。他社融通、揚水発電、そして自家発電からの供給が増え、ぎりぎりで供給が間に合った状況だ。16日の福島沖地震で、太平洋沿岸の火力発電所が軒並み被災。22日の寒波と悪天候でエネルギー不足が顕在化した。

政府は初めて、「電力需給ひっ迫警報」を発令。萩生田光一経済産業相は22日午後、緊急の会見を開き、広く国民に節電をお願いする事態になった。S N Sでは「この結果はエネルギー政策の失敗を示している。それを棚上げにして国民に負担をお願いは筋違いだ」という趣旨の批判が相次いだ。しかし、経産相と同省から、その種の発言は出てこない。政府が失政を認めることはない。

このエネルギー危機は、事業者の失敗だけではない。政策の失敗が影響したのは明らかだ。ところが、それを推進した政治やメディア、経産省・資源エネルギー庁は、その理由を明確に述べない。失敗の背景になった自らの行動を否定してしまうためだろう。エネルギー危機をもたらしている背景を、改めて確認してみよう。

◆エネルギー・電力危機の背景

第1の背景は、最近の脱炭素の流れの中で、火力発電が抑制されたことだ。2020年9月に菅政権が行い、岸田政権でも踏襲している50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとするカーボンニュートラル宣言が影響している。JERAは19年までに、16年ごろまで稼動していた自社の石油火力(発電能力約200万kw程度)を閉鎖。老朽化していたこともあり、LNGへの移行を試み、常陸那珂共同火力のプラントなどを増設した。ただ、ここまでひっ迫するのであれば、もう少し遅らせてもよかったかもしれない。政策が、大手電力会社の火力発電所増設の動きを抑制させた面はあろう。

第2の背景は、再エネの過剰な優遇だ。12年からの再エネ振興策によって、東電管内には1000万kW相当の発電能力がある太陽光発電システムが設置されている。ところが、電力危機が顕著になった3月22日に東日本は悪天候でほとんど発電がなく、天候に左右される再エネの問題が改めて浮き彫りになった。もちろん、再エネの普及はある程度必要だが、その弱点を考えず普及させることは疑問だ。いったい何のために巨額の支援をしているのか、理解できない。

第3の背景が、原発再稼働の遅れだ。2011年の福島第1原発事故後、日本の原発で営業運転を再開したのは33基中10基にとどまる(3月22日時点)。しかも、特別重要施設と呼ばれるテロ対策施設の工事の遅れを理由に、関西電力管内では一度新規制基準に合格した原発3基が、再稼動できない状況にある。

3月16日の福島沖の地震の前に、自民党の電力安定推進議員連盟、日本維新の会、国民民主党が、特重施設の設置を一時凍結して再稼動を認めるように経産省に申し入れをした。しかし、政府は規制委員会に申し入れず、同委員会もそうした取り組みをしない。原子力規制委員会は、独立行政委員会として、その運営では行政の統制を受けない。しかし経済や電力安定供給に問題があるのに、安全だけを追求する姿は異様だ。その施設がなかったからといって、原発は安全に動かせるはずだ。

これらの3つの背景は、相互につながっている。背景の1と2によって、電力供給が大幅に減りかねないのに、対策である原子力の活用が行われていないという構図である。

◆先例、野田首相の介入による再稼動

エネ庁は22日夜、同日から23日未明にかけての停電は「回避される見通し」と発表した。しかし来冬も厳冬期に、関東は100万kwの電力が不足すると見込まれる。昨冬も電力危機が発生した。日本の電力需給は脆弱になり、それが恒常化している。さらに、ウクライナ戦争を背景に国際的なエネルギー供給の混乱、価格の上昇が長期化する影響もある。原発再稼動は現状の問題を最も早くできる解決策だろう。

 自民党政権は、原子力に懐疑的な公明党と連立を組み、また選挙を常に意識している。11年3月の東京電力福島第一原発事故の影響から、これに反発する人、政治的に問題にする人がいる。そのために原発再稼働について、「触らぬ神に祟りなし」として、動かないのだろう。あまりにも無責任ではないだろうか。

国民民主党の玉木雄一郎代表は20日夜、ツイッターで「当面、国民の皆さんには節電をお願いせざるを得ませんが、本来なら国が責任を持って安全基準を満たした原発は動かすべきなのに、批判を恐れ誰も電力の安定供給に責任を持とうとしない現状こそ危険です」と、私見を述べた。こうしたまともな意見が、野党からも出るようになっている。

原発にはさまざまな意見があることは認めるが、電力が足りず、経済・社会活動に支障を来している現実の危機に、多くの国民が不安を感じている。旧民主党の野田佳彦首相(当時)は、関西地域の電力不足が明確になった12年春に、自ら再稼動を規制委員会に求め、それを実現させた。再稼動問題はこじれ「首相案件」という大事になっているが、首相が動けば状況を変えることはできるのだ。

なぜ岸田文雄首相が、現実の危機を直視し、エネルギーの安定供給のために、原子力再稼動に動き出さないのか。とても不思議だ。