コロナ禍で家庭の電力消費量が急増 顧客が公益事業者に求めること

2020年7月9日

インタビュー:伊藤吉紀/日本オラクル ユーティリティ・グローバル・ビジネスユニット ディレクター

米国では、新型コロナウイルスの感染拡大防止で外出制限が発令され、家庭の電力消費量が増大した。公益事業者はこの事態にどう対応したのか、日本オラクルの伊藤吉紀氏に話を聞いた。

――エネルギー事業者向けソリューション「Oracle Utilities Opower」のエネルギー効率化プログラムが顧客満足度向上に寄与しているようですね。

伊藤 このプログラムは、公益事業に特化したOracle Utilitiesのデマンドサイド管理ソリューションの一部として提供しています。家庭のエネルギー消費とコストを適切に制御するように顧客に知らせ、動機付けを行うことができるほか、公益事業者はサービス提供のコストを削減できます。

現在、Opowerプログラムがサポートする世界中の消費者世帯における累積エネルギー節約量は250億kW時に達します。これは、日本の130万世帯分の年間電力供給量に相当します。

在宅時間が長くなり家庭の電力消費量は増えている

――新型コロナウイルス感染拡大は海外の公益事業者にどのような影響を与えていますか。

伊藤 米国で最初の感染拡大の波が襲ったのは今年3月中旬です。米国の多くの地域で外出制限が発令され、企業活動が低迷し、顧客はほぼ終日自宅にいるため、エネルギー需要が劇的に増加しました。公益事業者は各家庭に必要なエネルギーを確実に確保しながら、最前線の就業者を保護するために、迅速に業務を転換する必要がありました。多くの公益事業者は、就業者が電力供給網管理やその他の重要な業務を自宅から管理できる遠隔技術を初めて活用しました。

――公益事業者は顧客にどのような対応を実施しましたか。

伊藤 公益事業者が、まず取り組んだのがエネルギーの安定供給です。次に、支払いが困難な家庭に対する供給停止を休止し、顧客とのコミュニケーションを再設計しました。顧客への働きかけを一時停止し、疾病対策センターのガイドラインを尊重しながら、適切かつ慎重なコミュニケーションを継続的にとりました。そのメッセージは徐々にエネルギー効率の提案へと回帰し、顧客はエネルギー使用と請求を適切に制御できるようになりました。

また、公益事業者は顧客の支払いや節約のため、活用可能な支援プログラムの告知に尽力しました。多くの顧客が失業中であっても、平時より多くのエネルギーを使用しているため、これらのプログラムを確実に顧客に知らせることはとても重要でした。

高額請求を事前に通知 コスト削減のヒントに

――外出制限で顧客のエネルギー消費行動に変化はありましたか。

伊藤 4月中旬にオラクルが米国で実施した調査では、83%の人が4月中に自宅で過ごす時間が長くなり、50%の人が光熱費の増加を心配していました。米国の家庭のエネルギー使用量は平均で30%、一部の地域では最大50%増加しました。このエネルギー使用量の増加は、支払いに苦労する顧客には大きな負担となりました。

――どのようにデータと分析を活用し、顧客を支援しましたか。

伊藤 公益事業者は、具体的な推奨事項を提供することを目指しています。Opowerプログラムでは、行動科学とデータに基づいたアドバイスを行うことが可能です。画一的なアドバイスを提供するのではなく、例えば、顧客が電気自動車の充電やエアコンの運転などを行うために多くのエネルギーを使用しているタイミングを正確に特定し、行動をわずかに変えることで料金を節約するといったヒントを個別に提供しています。

また、米国の調査によると、顧客の70%以上が高額請求の事前通知に関心を示し、80%近くが自宅でエネルギーを節約する方法についてアドバイスを求めています。そうした顧客は、その情報をより熱心に活用していると認識しています。

Opowerを活用している公益事業者の中には、3月の料金で前年比400%増もの高額請求通知を送信したところもあります。高額請求通知は、エネルギーの使用量とコストを削減するためのヒントになります。開封率および反応率は、昨年の同時期と比較して10%近く上昇しました。大半の顧客には、顧客自身でエネルギー料金を管理したいというニーズがありますが、多くの公益事業者はまだ実現できていません。

――日本の公益事業者の対応状況について、海外との違いは。

伊藤 日本の公益事業者は、新型コロナウイルスに対する行動計画があり、支援するプログラムが利用可能なことを顧客に理解してもらえるように努めていました。その点は米国と同様です。違ったのは、日本の事業者は、短期的な影響に焦点を当てたものが多く、前述のホームエネルギーレポートや高額請求通知など、長期的な消費目安や請求を制御するための情報提供をあまりしていません。この種のサービスは、今後の顧客エンゲージメントにとって不可欠であり、公益事業者が高い満足度を維持するに必要となってきます。

データと洞察が重要に クラウド化への転換点

――新型コロナウイルスと地震などの災害で、事業者の対応において異なる点は。

伊藤 新型コロナウイルスによるエネルギー供給網への物理的な影響はありませんでしたが、地震などの災害は、規模や発生した地域によっては、重大な損傷を与える可能性があります。公益事業者は、感染症と災害のどちらに対しても、顧客と効果的なコミュニケーションを図り、救援活動に従事し、情報を提供し続ける仕組みを備えていく必要があります。新型コロナウイルスにおけるコミュニケーションは、その時々の状況に応じた、適切な省エネを促すヒントとなることに重点が置かれています。

公益事業者が災害を管理するためにはデータと洞察が重要です。公益事業者は人工知能を使用して、適切な材料、労働力、コミュニケーション計画を立てることで、被害をより適切に予測および準備し始めています。

新型コロナウイルスは、これまでとは全く異なる種類の災害ですが、公益事業者が適切なテクノロジーを備えて迅速に対応し、適応する必要があります。現在、すべての公益事業者がこの種の俊敏性を促進するクラウドテクノロジーを採用し、推進する転換点に差し掛かっているのかもしれません。

いとう・よしのり 東北大学大学院工学研究科修了、博士(工学)。アクセンチュア経営戦略本部素材エネルギーグループ、デロイトトーマツコンサルティング、ベンチャーを経て、2018年から現職。