【特集2】再エネとコージェネを最適制御 多様な設備群を扱う強み生かす

2022年6月3日

【東京ガスエンジニアリングリューションズ】

東京ガスエンジニアリングリューションズは再エネの運用を本格化している。ガスコージェネを加えた多様なリソースによって最適なソリューションを提供する。

かつて分散型といえば、ガスコージェネレーションシステム(コージェネ)が代名詞であり、そのコージェネを核に地域冷暖房事業や分散型のエネルギーサービス、エネルギーソリューションを提供してきたのが、東京ガスグループの東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)だ。

TGESが20年以上の事業経験によって扱ってきた分散型や熱源設備群はコージェネや吸収式、ガスエンジンヒートポンプ(GHP)といったガス設備だけにとどまらない。電動型ターボ冷凍機といったヒートポンプ設備や、環境性に優れた木質チップボイラー、太陽熱、あるいは昨今では蓄熱槽を運用するなど、設備群の幅を広げてきた。そうしたビジネスモデルがいま、大きな変貌を遂げようとしている。キーワードは「もう一つの分散型」だ。

「太陽光発電設備の第三者保有モデルとなる『ソーラーアドバンス』というサービスを昨年から本格的に開始しました。設備を当社が負担することで、お客さまはイニシャルレスで太陽光発電設備を導入できます。これまで多様な設備を扱ってきたノウハウを活用しながら、太陽光パネルの設計や施工、そして運用を手掛けていきます」。企画本部経営企画部の北岸延之事業開発グループマネージャーはこう話す。

「もう一つの分散型」とは、つまり再エネによる発電設備を取り入れるビジネスモデルのこと。ユーザーは、投資負担がゼロで長期にわたり設備運用を手掛けるTGESからエネルギーサービスを受ける。裏を返せば、ユーザーはTGESに任せることで、長期にわたって「再エネ利用」をうたうことができるわけだ。

そんなビジネスモデルが既に始まっている。ユーザーは自動車メーカーの本田技研工業だ。国内事業所としては最大規模で、二輪車などを生産する熊本製作所(熊本県)の工場の敷地内に3800kWの太陽光パネルを敷き詰め、昨年10月からサービスが始まった。発電量は全て工場内自家消費だ。

こうしたモデルを巡っては、多様なビジネスプレーヤーが参入しているが、TGESによる運用の特徴は、「ヘリオネット21」と呼ばれる、同社が独自に開発し培ってきた「遠隔監視システム」を活用することにある。ヘリオネット21は、24時間365日遠隔監視を行う「ヘリオネットセンター」が運営し、故障予知や予防保全による対応の効率向上を図ってきた。今回の太陽光設備も遠隔監視することで、運用データに基づいた最適なメンテナンスを実施し、太陽光発電のパフォーマンスを最大限に発揮できる。

こうして、ユーザーはエネルギー設備運用のプロであるTGESに任せることで、「設備の運転不備」や、社会問題化しているような「太陽光パネル施工不良」といった課題からは解放され、安心して、そして安全に再エネを利用できるようになる。

再エネという新たな分散型アイテムを加えたTGESでは、「再エネ自家消費」にとどめず、再エネの余剰電気を活用する、もう一歩踏み込んだサービスモデルも構築している。

再エネを自己託送に 運用は全て自動制御

今年2月から、不動産デベロッパー大手である東京建物に対して始めたスキームだ。東京建物が管理する物流倉庫の広大な屋根に太陽光発電設備(3地点、計2100kW)を敷き詰め、倉庫内の照明や空調などの需要を中心とした自家消費を原則としながらも、太陽光の余剰電力を有効に活用する「自己託送」モデルである。

自己託送とは、特定の自社発電設備と特定の自社設備の需要を、電力会社の送配電ネットワークを介して結び付けた電力需給の仕組みである。このスキームでポイントになるのが、計画値同時同量の原則だ。太陽光発電設備の発電量と、需要側の需要量を30分ごとに予測し、かつ需要量と供給量を一致させて電気を送る。その計画値は、送配電ネットワークの運営を管理する電力広域的運営推進機関に30分ごとに提出する必要がある。計画値のズレは停電を誘発する恐れがあるため、送配電ネットワークという公共インフラを利用する限り厳守しなくてはいけないルールである。ズレが発生した場合、送配電ネットワークの利用者はインバランス料金(罰金)を支払うルールになっている。

こうした一連の面倒な設備運用や計画値の提出といった手続きを全て自動で行うのが、ヘリオネット21を進化させた「ヘリオネットアドバンス」である。

「エネルギー設備を遠隔から監視するだけでなく、直接制御できるようにしたことから可能になった新技術です。当社が手掛けてきたいくつかの地域冷暖房拠点で、コージェネの余剰電気を使った自己託送を行ってきました。そうしたノウハウをもとに、再エネによる自己託送にまで領域を広げました」(前出の北岸さん)

再エネを使った自己託送モデル

コージェネの新たな役割 回転体としての同期機能供出

再エネという新しい分散型の運用が本格化するのに伴い、従来の分散型、つまりガスコージェネにも、これまでの概念とは異なる新しい運用の可能性があるのではないかと北岸さんは考えている。

「昨今、再エネが大量導入された結果、電力系統全体で慣性力が失われつつあります。つまり系統の安定化を保つことが難しくなり、停電リスクが高まっています。これまで慣性力を供出し、系統の同期機能を果たしていたのは大型火力を中心とした回転体の発電機でしたが、今後、大型火力の新設やリプレースが難しくなれば、停電リスクはますます高まります。そこで、発電規模は小さいですが、回転体発電機であるコージェネが系統の安定化に寄与するような運用も考えていく必要があるのではないかと思っています」

電気工学への造詣が深く、電力インフラという公共財の安定利用に思いをはせる北岸さんなりの視点である。これまでコージェネ導入の目的はピークカットやレジリエンスの視点が中心だったが、今後は「再エネ共存」という新しい視点と、それに合わせた電力制度の見直しが求められてこよう。