原子力発電の現状に強い危機感 審査効率化でより速やかな再稼働を

2022年6月4日

【自民党の原子力規制に関する特別委員会/鈴木淳司 委員長】

自民党の原子力規制に関する特別委員会は、5月に安全規制・防災の充実・強化について提言をまとめた。

原発再稼働に向けて規制行政の見直しなどを求めるもので、鈴木委員長に提言の骨子を聞いた。

すずき・じゅんじ 1982年早稲田大学法学部卒、松下政経塾入塾。瀬戸市議会議員を経て2003年衆議院議員(当選6回)。経済産業副大臣、自民党副幹事長、総務副大臣などを歴任。

―今年2月に提言の作成に着手しました。どういう心境で臨みましたか。

鈴木 わが国の原子力の現状について非常に危機感を抱いていました。偶然ですが、特別委員会の会合を開いていた3月22日、電力需給がひっ迫し、東北地方と首都圏で停電寸前にまで至った電力危機が起こりました。われわれは将来にわたる原子力の安全確保の議論をしているのですが、今まさに目の前で起こっている危機に原子力発電所が何も対応できていない。そのことに強いもどかしさを覚えました。

 ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的なエネルギー危機や、円安による石油、天然ガスなどの価格高騰は、国民生活や産業活動を圧迫し始めています。また、世界的な要請のカーボンニュートラルへの対応も待ったなしの課題です。電力需給ひっ迫は、今年度の夏、冬も起こり得ると言われています。それらの課題を解決できるのは、当面、原子力しかありません。まず、その点をしっかり位置付けたい思いがありました。

―福島第一原発の事故の後、日本の原子力は著しい停滞が指摘されています。

鈴木 多くの原子力発電所が長期間運転停止をしている間に、実績のある運転員が退職し、稼働経験の乏しい職員がそれに代わることになります。また、運転再開に向けた予見可能性が著しく低いことは、投資へのインセンティブを減少させてしまう。優秀な人材の確保も難しくなり、安全・安定運転の基盤となるサプライチェーンも衰えます。原子力発電所は、止めていれば安全だと考える人が多い。しかし、実は長期の停止はかえって安全を損なることになりかねないのです。

 一方、先日、米国から高速炉(FR)の共同開発を持ち掛けられたように、日本の原子力産業にはまだ豊富なポテンシャルがあり、世界から評価されています。原子力産業を今後も維持、発展させていくことができるか、今はまさに正念場だと思っています。

―まず、どういう課題を優先すべきだと考えましたか。

鈴木 停止中の原子力発電所の再稼働です。今回のエネルギー基本計画でも、2030年に原子力比率20~22%という目標が示されています。しかし、福島第一原子力発電所の事故から11年、原子力規制委員会の発足から10年がたちましたが、まだ再稼働した発電所は10基にすぎません。現在停止中の17基が運転しなければ、この目標は達成できない。その点からも、速やかな再稼働についての検討が絶対に欠かせません。

―原子力規制委員会の新規制基準の適合性審査で、いまだに多くの原発が停止しています。提言では、審査の在り方について、さらなる見直しを求めています。

鈴木 われわれは規制を緩めるべきだとは、一切主張していません。申し上げるまでもなく原子力は安全が最優先ですから、規制はしっかりと行うべきです。ただ、審査は効率よく進めていただきたい。現在の審査の在り方には、まだ改善すべき点が多くあると思います。

断層などの審査で多くが停止している(敦賀2号機)

理学系の論点で審査長期化 事前に問題意識の提示を

―具体的にどういう点を見直すべきですか。

鈴木 規制委の審査会合は、事業者にとって「一発勝負」のような側面があります。いわば事前通告のない国会質問のようなもので、質の高い良い議論にはなりません。しかも、審査が長引いている主要因でもある断層や地震、津波、火山などの自然科学系の論点は、そもそも取得すべきデータが膨大かつ困難です。

 そのような中、事業者は審査会合に備えて、膨大な取得データなどの証拠を整理し、大変な時間と労力をかけて資料を準備します。しかし、規制委の関心事項やポイントと、事業者の認識がずれていると、膨大なロスが生じます。その過程での手戻りで審査がストップし、再開するまでに長い時間がかかってしまう。やはり審査会合の場で、規制委の委員と事業者の議論がしっかりかみ合うようにしなければならない。

―求められていることは。

鈴木 審査の過程で、規制側から事業者に対して「規制当局としては、こういう問題意識と関心事項を持っている」ということがしっかり伝わり、共有されていることが大切です。その点、北海道電力泊3号機の審査では、今年3月末に、規制側から審査会合で論点となるポイントが初めて明文化された形で示されました。これは、これまで例のなかったことで、今回の提言の中でも評価しています。

 審査会合の前に、規制側が質問や確認する項目を文書で示し、それに対して事業者が適切な準備をしっかり積み重ねていけば、会合を効果的・効率的に行うことができます。他のサイトでの審査でも、引き続きこういった取り組みを進めていただきたい。

―今後、提言をどう扱いますか。

鈴木 5月12日に山口壯環境相に提出し、16日には岸田文雄首相に申し入れを行いました。今後、党の総合エネルギー戦略調査会などとも連携して、提言内容の実現を求めていきたいと思います。

―ところで、今回の提言は「中間報告」ですが。

鈴木 われわれは、提言の内容がどう実行されていくか、今後、その状況を引き続き確認していきます。規制の在り方については、引き続き安全第一の原則は堅持しつつ、必要に応じて原子炉等規制法などの改正も視野に入れ、より効果的・効率的な規制に向けて、議論の深掘りを進めていきます。