【特集2】低コストで分散型エネ導入へ 既存設備を有効活用が鍵に

2022年6月3日

分散型エネルギーの構築には、街づくりをどう進めていくかという視点が欠かせない。都市部と地方でそれぞれ分散型エネルギーを構築するを街づくりの専門家に聞いた。

【インタビュー:村木美貴/千葉大学大学院工学研究院教授】

―太陽光や蓄電池、水素などを組み込んだ分散型システムが登場してきました。街づくりの観点からどう見てますか。

村木 都市部や地方を共通して、エネルギーシステムより熱導管やマイクログリッドなどエネルギーネットワークの整備を優先すべきと考えます。ネットワークさえ構築できれば、これまで化石燃料を使っていたとしても、再エネや水素など新エネルギーに容易に転換できます。

―エネルギーネットワーク整備において課題はあるでしょうか。

村木 人口密度が高い地域ほど、公道の利用料金が高くなります。電力ネットワークはエリア内の都心部の高い利用料金を地方の安い利用料金でならし、電気料金に組み込んでいます。分散型の場合、利用する地域が限定されるため、他の地域との平均を取ることができません。このため、都市部で分散型の街づくりを行うのはハードルが高いです。

―都市部で注目する取り組みを紹介してください。

村木 東京・丸の内地区で地域熱供給にカーボンニュートラル(CN)LNGを採用しました。人も建物も密集する都市部では脱炭素に向けた取り組みが限定されます。その中でCNLNGは有効です。今後再エネとして認められ、オフィスに入居する企業が自社単独で脱炭素化に取り組むよりメリットがあると判断すれば、支持する輪がより広がっていくと思います。

自然や地域の特色を生かす 身の丈にあった分散型構築

―地方はいかがでしょうか。

村木 自然や地域産業の特色を生かし自前でエネルギーをつくり出すやり方が効率的です。北海道下川町では全面積の9割が森林でバイオマスによるエネルギー自給に取り組んでいます。北海道鹿追町では人口5000人に対し、牛が3万頭います。発生する大量のメタンガスを発電やLPガスの代替燃料製造などに利用しています。

 水素では、日立製作所と丸紅、みやぎ生活協同組合の取り組みがユニークです。水素を充填した水素吸蔵合金カセットを生協のトラックで配送し一般家庭や店舗に設置した燃料電池で利用するものです。多品目配送は、地方で展開するには良い仕組みです。これまで個社がそれぞれ配送網を持つのが一般的でした。エネルギーが食品などの配送網を活用して輸送できたら効率化につながり、コストを大幅に削減することができます。

―分散型エネルギーの普及にはどういったことが求められますか。

村木 人口減少が進む中、資金を投じて土地を開墾し、新たな街づくりを行うことは困難です。既存の建物や設備を可能な限り利用することが求められるでしょう。

 例えば、高齢者世帯が居住する屋根に太陽光発電、ガレージが空いているなら電気自動車(EV)や蓄電池などのエネルギー設備を置かせてもらい、その分使用料金を支払うなど、取り組みに参加する人が分かりやすく、かつ利益を享受できる仕組みが欠かせません。

むらき・みき 1991年日本女子大大学院家政学研究科修了、同年三和総合研究所入所、96年横浜国大大学院工学研究科修了、同年東工大大学院社会理工学研究科社会工学専攻助手、2000年ポートランド州立大ポートランド都市圏研究所客員研究員、13年から現職。