【コラム/6月7日】「電力需給逼迫警報を考える〜電力システム改革誤謬(電力自由化)の早期是正を」

2022年6月7日

飯倉 穣/エコノミスト

1,経産省は、3月21日東京電力管内に電力需給逼迫警報を発出した。供給面の応急手当や需要サイドの協力で凌いだ様だが、日本で電力の安定供給懸念が日常化している。

報道は伝える。「夏の電力需給 懸念広がる 火力電源停止響く」(日経22年4月12日)、そして「電力不足 新たに「注意報」経産省方針「警報」基準に至らなくても」(朝日同5月18日)。

経産省は、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会(以下小委員会という)で、今後の電力需給対策の事務局案を提示し、委員のご意見拝聴を継続している。どんな立場の有識者か今一不明である。現状、電力の安定供給の責任者の姿も見えず、役所の役割も判然とせず、また過去に頼りとした肝心の電気事業者の声も聞こえず、需要家は戸惑うばかりである。電力需給逼迫から電力システム改革の誤謬と見直しの方向を考える。

2,今回の東日本の需給逼迫は、3月16日の福島沖地震で火力発電所(335万KW)が停止し、その後発電所(134万KW)トラブルが継続し、そこに寒さによる需要の大幅増(想定需要4300~4500万から4840万KW予想)と悪天候による太陽光の出力減(1000万強から175万KW)が重なったと説明される。つまり原因として電力自由化の過誤を連想させず、発電所の停止、連係の運用容量低下、気温、悪天候を述べる。顛末は、追加供給(含む融通)もあったが特に節電要請(結果500万KW減)で需給均衡し、計画停電やブラックアウトを回避できた。

この事態を受け、小委員会は、需給検証、警報発出経緯、逼迫時の対応、節電要請を検証した。対応案は、需要抑制策で警報の発令時期・方法の検討、デイマンドリスポンス(DR)の強化に加え、法的な電力制限、計画停電の準備を挙げ、供給面で実現曖昧なKW公募である。消費者を蔑ろにする策が目立つ。電力システム改革後の所謂「自由化電力市場の歪み」を見直さず、膏薬張りを続けていいのか。

3,最近の小委員会(4・5月)は、電力・ガス小売全面自由化の進捗状況、直近の卸電力市場の動向、今後の小売政策、22年度の電力需給対策、3月の東日本における電力需給逼迫に係る検証等を紹介・意見交換している。

自由化進捗状況報告は、安定供給強化の度合、効率化によるコスト低下を示さない。小売政策は、事業者リスク管理、料金未払い対応に加え、家庭料金ガイドライン・産業用料金標準メニューと最終保障供給のあり方等を談義する。本来市場任せの話題である。22年度電力需給対策は、予備率の引き上げ、追加供給対策でKW、KWH公募・電源確保、需要対策でデイマンドリスポンス(DR)公募・使用制限令検討等を挙げる。いずれも官の需給関与強化である。

待てよ。各事業者の経営や需要家の問題は、自由市場なら放置だろう。電力自由化は、需給を市場に委ね、価格で調整する姿を夢とした。その実現で電源確保も可能で、且つ需要家の節電も実施され、需給も安定する。そして競争で価格低下という話だった。

需要抑制策や、供給対策(稼働可能な電源の確保、予備電源の確保、燃料調達リスク対応、新規電源投資促進、地域間連携選の増強)を殊更検討する姿は、電力システムが機能麻痺に陥っていることを示す。

4,現電力システムなら、今後も需給ひっ迫は継続する。小委員会の検討内容からも、原因は明らかである。現状の電力需給は、需給見通しの精度と乖離の場合の対処責任不在。電力供給体制で予備率の根拠不明(担当官庁の思惑優先)、予備率確保対策の意志薄弱。将来の供給に対する電源開発見通し不透明、小売り業者の責任曖昧。需要面で電力不足対応需要削減行動依存等の渦中にある。

市場に電力安定供給能力はあるか。市場は、需給変動による価格変化で需給均衡を達成する。需給は、参加者の需給の増減(含む供給者の参入・退出)で調整される。ショック等が起これば、均衡点から離脱し、次の均衡に向かう。自由化論者は、電力も通常の商品と考え 価格変動による需給調整の姿こそ安定的と考えた。それが自由化の罠である。加えて自由化の根拠でもあった分散型電源出現(技術革新)で供給サイドは自由参入可能(電源投資の制約なし)という前提の崩れもある。

現状は電力自由化の行き詰まりで、毎年需給ひっ迫が恒例行事化する様相である。国民が考える安定供給とは異質である。電力は通常の商品と違い、非弾力性(必需品)がある。どうするのか。多くの消費者は、選択自由な電力メニューの幻想より、合理的価格の安定供給希望であろう。今は電力システム改革の見直しが必要であり、それを担当官庁は考えるべきである。

5,電力業は、事業の発生経緯や電磁気学の視点では、発送配電一体が本来合理的なビジネスモデルである。システム統合のメリットで、コスト最小化を目指す限界費用ベースの運営を可能とする。適正予備率確保で、経験値を最大限活用出来、また固定料金と変動料金の組み合わせが、必要電源投資を可能とする。つまり安定性・適正価格の面で発送配電一貫体制が合理的かつ自然である。それを疑似する卸電力市場は機能不全且つ余計である。

発送電分離なら投資の不確実性増大で、投資不足となり、予備力低下を招き(担当官庁・小委員会の瑕疵)、且つ供給義務の所在が不透明なため、安定供給が覚束なくなる。又海外調達エネルギーの不確実性、国内自然エネ電源の振幅の大きさ(天気次第)に十分対応・吸収できない副作用も顕在化した。

6,今必要なことは何か。電力需給逼迫は、意味曖昧な電力自由化という制度設計失敗で生起している。その対応として電力自由化を見直さず、その場凌ぎの弥縫策、そして抜本策の先送りでは困る。そこに永遠の市場の存在はない。

電気供給の本質は、電気の性格から、発送配電一貫体制、適正コストを反映した料金規制が現在も妥当である。通常の商品と違う電場の供給に相応しい供給体制は、供給責任の明確化、地域独占、発送配電一体の経営形態、第三者アクセス容認、2部料金制、総括原価、公的なコスト監視の仕組みがより適切である。依然公益事業体制は合理的な解である。この事実を踏まえ、電力システム改革を再検討することが必要である。

その際実業のことは、実業家に任せる。虚業家は静かに見守る。行政は、民間事業に横やりを入れず、介入を最小限にし、調整に徹することが賢明である。市場とは何か。「短期の政策、長期は市場」の言葉のように政策には限界がある。現状は、長期市場の展望なく、短期のやりくり政策に終始している。担当者は粋がるだろうが、国民には迷惑である。電力自由化は、一部担当官僚の情念だったが、欧米物真似の失敗例となっている。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。