【コラム/6月10日】電力逼迫(ひっぱく)と出力制御、電気足りない?電気余っている?

2022年6月10日

渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 社長室長

 2020年の冬、電力料金高騰のニュースが流れ、2021年5月当時の経済産業大臣である梶山大臣が会見で夏の電力逼迫(2021年の夏)の懸念とその対策を早急に立てるように指示している。そして今年2022年も直近で「夏の電力逼迫、節電要請、閣僚会議 全国規模は7年ぶり」や「エネルギー危機・日本の選択(上)電気不足、冬に110万世帯分 火力閉鎖・動かぬ原発…節電頼み 停電回避へ政策総動員」(いずれも日本経済新聞)といったように電力逼迫のニュースが流れている。2011年の東日本大震災などは地震という災害に伴う電力逼迫であったが、この数年における電力逼迫は、海外から燃料を輸入して火力発電を主として電気を供給するというこれまでの構造、ウクライナ情勢も踏まえて、エネルギーの安全保障という観点からも現実的かつ長期的な課題であるという認識あるいは危機感が一般の方々にも肌感覚で感じるようになってきていると思う。電気が足りないことが慢性的な(生活習慣病みたいな感じになってきた?)ものとなりつつあるのかもしれない。
 一方で、「出力制御、四国と東北に続き中国エリアでも開始。大型連休にはさらに拡大か」(ソーラージャーナル)や「東北電力、10日に初の再生エネ出力制御」(4月9日)、「中国電力、17日に初の再エネ出力制御へ」(4月16日)、「北海道電力も初の再エネ出力制御、最大19万キロワット」(5月8日)といったように今年の4月から5月のGWにかけて、出力制御のニュースが流れている。出力制御は主に九州において実施されていたものが、今年になっていよいよ本州や四国、北海道にも本格的に実施されるようになってきた。これが業界の方の肌感覚だと思う。好天となって太陽光発電の出力が高くなり、供給が需要を上回ると見込まれる、それに伴い需給バランスが崩れて停電が起きることを防ぐために出力制御を実施するのであるが、その実施回数が増加しつつあるのは、太陽光発電の導入がそれなりの規模になってきたことを示している。出力制御を実施するということは、電気が一時的に余っているということになる。この「電力逼迫:電気足りない」と「出力制御:電気余っている」というニュースを比較した時、一般の方々からすると何か矛盾に感じるであろう、あるいは、子供に「電気って足りないの?余っているの?どっち?」って聞かれたら何と答えるのだろうか?「脱炭素社会の推進で再生可能エネルギーの導入を進めているのに、燃料費タダで発電できる再生可能エネルギーの電気を制御するのはもったいない」ということを素朴に思う人は多いのではないだろうか?

 では、どうしたら良いのかということになるのだが、それについては、「再エネがもったいない!広がる太陽光発電の停止・出力制御 NHK解説委員室」を是非ご覧いただきたい。
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/467520.htmlそこには具体的に4つ書かれている。①火力の出力のさらなる低下②電気の料金プラン、電気の余る昼間の料金を安くする(これまでは夜間を安くする料金プランが主流であったが)③送電線の増強(余った電気を足りない所に流す)④電気を貯める、すなわち蓄電池である。私はこの4番目の貯めるということをもっと促進していくべきではないかと思う。再エネが増えて電気の需給バランスを取るのが大変になったような論調が多く見受けられるような気がするのであるが、であれば、貯めるという技術を積極的に導入することで、自然現象に依存して発電する太陽光や風力、いわゆる変動電源を蓄電池をセットにして安定電源にしていくということをもっと議論しても良いのではと思う。2020年3月時点で太陽光56GW、風力4.2GWの導入量実績があり、この既存設備に対して蓄電池の導入を促すような施策を実施するのはいかがだろうか?FIT制度との絡みでこれ以上の国民負担をという議論は当然あるかもしれない。しかし、電力価格が高騰し、電力小売りとの契約がない法人に必ず電気を届ける「最終保障供給」の利用が1万3045件に上る(5月20日時点)、いわゆる「電力難民」が発生している状況が続くのであれば、また結局のところ脱炭素の実現を進めて行かなくてはいけないという前提に立つならば、再エネ導入の促進と貯めることによる安定電源の実現を目指すということはもっと優先順位を上げて議論していっても良いのではないかと思う。

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。