【論考/6月23日】初の電力需給ひっ迫警報 大騒ぎしすぎではないか

2022年6月23日

東京・東北電力管内で3月22日に火力発電所の停止などで電力供給が不足し、初の需給ひっ迫警報が出された。しかし、季節外れの寒波など想定外の事象が三つも重なる稀なことであり、常にこのような事態に備えるならば、電気料金の上昇は歯止めがかからなくなる。需給ひっ迫自体が電力システムの深刻な問題を示しているのではなく、むしろ容量市場の整備など、東日本大震災後の電力システム改革は安定供給に貢献する。

本年3月22日に初めての電力需給ひっ迫ひっ迫警報が東京・東北電力管内で出された。多くの需要家の節電への多大な協力と、電力事業者、広域機関、政府などの奮闘により停電を回避した。これに関して、大停電寸前だった、供給力確保量が足りなかった、果ては電力システム改革の深刻な問題を露呈したと騒ぐ者すら現れた。

しかし、何が起こったのかを冷静に考えるべきだ。まず3月16日に発生した福島県沖地震によって多くの発電所が停止し、その後、地震と無関係なトラブルで東京電力管内の大規模発電所が停止した。さらに3月22日は季節外れの寒波・降雪に見舞われ、暖房需要が急増した。電気のプロが契約しているkW対応の契約の多くが、3月は対象外だったことからも分かるように、この気象は予想外の異例の事態だった。既に繰り返し指摘しているように、暖房需要を増加させる荒天時には太陽光発電の出力低下も起こりがちで、需給はより厳しくなる。

今回の事象はそれぞれ一定の確率で起こる大きなトラブルが三つも重なる稀な事象であった。大きなトラブルが複数重なる事態でも、需要家が好きなだけ電気を消費できる体制を整えようとしたら、電気代はどこまででも高くなる。このような事態で、需要家に何らかの対応を求めるのは合理的で、これ自体が電力システムの深刻な問題を示しているのではないし、これが発生すること自体を安易に危機と捉えるべきではない。

問われる事前の準備不足

稀頻度とはいえ、もっと深刻な事態は今後も起こり得る。そのための事前の準備が十分だったか、という観点からは、確かに多くの問題があった。

分かりやすいのは警報のタイミングだ。必要に応じてより迅速に対応するための制度・運用の改善は、既に進んでいる。

金銭的な誘因に基づく効率的な節電、DR(デマンド・レスポンス)を促すための制度、インフラ整備が不十分だった点は、既にさまざまな観点から議論されている。一朝一夕には進まない難しい問題だが、安定供給以外の文脈でも重要で、今後も検討を進めるべきだ。

これと関連して、停電よりはましな供給制限の準備は大きく遅れた。10年以上前に本欄で論じたように、スマートメータを使えば、停電よりスマートな供給制限が技術的には可能だ。節電が進まないと停電になる事態より、アンペア制限をする事態の方がより効率的なはずだ。しかし送配電事業者は、指摘を繰り返し黙殺し、対策は次世代のスマートメータの更新時まで先送りされた。10年を空費した不作為の罪は重く、今回を契機にこれが強化されることを期待している。

また、かつて本欄でも提案した容量市場の経過措置が採用されず、老朽化した電源の休廃止の誘因を高める制度となるなど、総括原価と地域独占で守られた時代に造られた電源の安直な休廃止を抑制する対策が後手に回ったことも、供給力不足の一因となっている。既に議論が進んでいる新設投資促進のための新たな市場設計とあわせて、今後は休廃止対策も進めなければならない。

容量市場は安定供給に重要な役割

後手に回った部分が多くあったとはいえ、東日本大震災後の電力システム改革は安定供給の観点からも威力を発揮する。2024年度からの受け渡しで、今回には間に合わなかったし、制度設計にミクロ経済学のイロハも踏まえない不適切な部分があったとはいえ、今後、容量市場は安定供給にも重要な役割を果たす。また軽負荷期にも問題が起こり得ることも既に以前に指摘した通りで、夏冬の需要期以外の目配りも重要だが、だからこそ、24年度以降の供給力評価は、粗雑な夏冬のピンポイント評価から、全てのコマをにらんだEUE(確率論的必要予備力算定)評価に切り替わる。

国の電力システム改革は安定供給に貢献している

震災前には、旧一般電気事業者の反対で、東西を結ぶFCの容量はわずか120万kWに抑えられ、しかも中部電力管内の投資の遅れによりその能力も上限まで使うことは出来なかった。震災後の増強も90万kWの増強をさらに90万kW積み増す案には最後まで事業者が懸念を示す中で、増強が決定された。今回は300万kWまでの増強は間に合わなかったが、震災後に抵抗されなかった一部の増強は間に合った。震災後の改革を批判する者は、連系線の容量が120万kWだったらどれだけ状況が悪化したかも考えるべきだ。

電力システム改革で生まれた広域機関が果たした役割と、エリアのエゴが衝突して全体最適にほど遠かった震災前の状況を比べれば、改革が安定供給に果たした役割も理解できるはずだ。

市場メカニズムを使ったDRによる供給力創出はまだ途上だが、3月22日も無視できない量の経済DRが発動され、停電回避に大きな役割を果たした。足下でも、2025年度向けの容量市場入札では、DRを中心とした発動指令電源の応札量が上限に達し、ゼロ円入札したDRすら落札できないほどにDRは発達してきた。

需要側の資源も活用しながら

電力システム改革の目的は安定供給を犠牲にして電気料金を下げることではなく、電力村の硬直的な常識にとらわれない多様な知恵を集め、需要側の資源も有効に利用しながら、より効率的に安定供給も維持することだ。

ゼロエミッション社会実現に向けて変動再エネが増加していく中で、需給逼迫が起こる度に危機とあおり立て、古い電力村の発想に基づく制度への揺り戻しが起これば、ただでさえ高い電力コストはどこまで高くなるかわからないし、既にその兆候が現れていると懸念している。

まつむら・としひろ 東京大学社会科学研究所教授 1965年生まれ。88年東京大学経済学部卒。東京工業大学社会理工学研究科助教授を経て現職。専門は産業組織、公共経済。