住宅の歴史をつくった3社が集結 整備と再生に向けた今後の課題

2020年12月30日

各地に多く存在するストック住宅の整備や再生はこれからの大きな課題だ。
大規模団地や住設機器の開発、工業化住宅の導入などで造られてきた日本の住宅。
これらの歴史に深く関わってきた3社が一同に会し、今後の課題を話し合った。

          ※この座談会は11月下旬に開催され、撮影時以外はマスクを着用して行いました。

【座談会】(司会)中上英俊/住環境計画研究所 代表取締役会長

石川直明/東京ガス 暮らしサービスコミュニケーション部 都市生活研究所 所長、

尾神充倫/UR都市機構 本社 技術・コスト管理部 担当部長

塩 将一/積水化学工業 住宅カンパニー 広報・渉外部 技術渉外グループ シニアエキスパート

上段左から石川氏、中上氏
下段左から尾神氏、塩氏

中上 日本の住宅の歴史を振り返ると、UR(当時の日本住宅公団)の団地の普及で日本の生活様式や住まい方が体系的に確立され、そこに都市ガス会社が入って、さまざまな住宅設備が開発されました。また、工業化住宅の導入で家庭のエネルギー消費量が住宅の設備性能評価の指標として注目され、私が研究所を設立するきっかけとなりました。今日はこの歴史に関わってきた3社が勢ぞろいでストック住宅の対策をテーマに話し合われるのを楽しみにしています。

石川 当社は、エネルギー事業者として、家庭で安全かつ安心してエネルギーをお使いいただくことが第一の使命です。それを前提として、今回のテーマであるストック再生などに関連した取り組みとしては、住宅のスマート化や災害時へのレジリエンス化、高齢化社会などに対応したウェルネス化などを踏まえた既存住宅への対応を、住宅関連事業者さまと連携して検討しています。生活者のニーズを踏まえながら、都市ガス、電気、サービスといった多様な視点での検討を行っているところです。
 なお、私が所属する都市生活研究所は、お客さまへの豊かで便利な暮らしの提供に向けて、社会の変化や生活者の暮らし方などの研究を行っています。

尾神 URはこれまで、賃貸・分譲住宅を約150万戸建設し、現在所有する賃貸住宅は約72万戸になります。昭和30年代に建設されたものは建て替えを行い、昭和40年代以降のものはストック活用に取り組んでいます。現在の日本の家族構成の変化を見ると、65歳以上の高齢単身世帯の割合が増加傾向にあり、この状況は団地にも当てはまります。まさに、団地は日本社会の縮図といえるでしょう。
 そうした中、当社では「UR賃貸住宅ストック活用・再生ビジョン」を策定し、多様な世代が安心して住み続けられる環境の確保とともに、地域との関係性を保ちながら持続可能かつ活力がある地域づくりに取り組んでいるところです。以前の団地はファミリー世帯が入居して、多くの子どもたちの姿が見られて活気がありましたが、今は若い世代が減り、団地や地域の元気がありません。そこで、高齢者の方々への施策とともに、若いファミリー世帯を呼び込むため、多様な世代が生き生きと暮らし続けられる「ミクストコミュニティ」の実現などに取り組んでいます。

 積水化学工業が住宅事業に取り組み始めたのは1971年からです。当時、人口の増加や高度経済成長に伴う都市部集中の状況で住宅が不足する中、工業化住宅としてプレファブリケーション(プレハブ工法)が注目され、他業種からの参入で住宅メーカーが次々と誕生し始めた時代です。85年に新耐震基準が施行された頃は、地震や台風に強くて安全という観点が注目されていました。
 その後、地球温暖化でエネルギー問題が注目されるようになる中、94年頃から系統連系できる太陽光発電の住宅への搭載が始まり、住宅でエネルギーを作ることができる時代になりました。私は、98年から開発部門で太陽光発電の専任として、当社の渉外活動や太陽光発電協会の監事を担当しています。

高性能化してきた住宅設備 分散型でエネ供給を最適化

中上 都市ガス事業者は、お客さまとの接点が多いことから、メーカーとともにさまざまな住宅設備の開発をされてきました。

石川 省エネの推進ということで申し上げると、高効率給湯器である潜熱回収型のエコジョーズの普及拡大に取り組むとともに、さらに省エネ性を高めた家庭用燃料電池「エネファーム」を2009年から販売し、累計販売台数は13万台を突破するまでになりました。また、最近ニーズが高まっている災害時のレジリエンス対応については、17年度から停電時発電継続機能をエネファームに標準搭載しています。さらに貯湯槽のお湯を断水時に雑用水として使うことができるなど、一層のレジリエンス性向上に貢献できます。
 また、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた取り組みとして、今後はガスや電気の組み合わせによる再生可能エネルギーの有効利用が必要と考えています。まずは燃料電池であるエネファームに太陽光発電と蓄電池を組み合わせた「3電池連携」により省エネ性の一層の向上を図りつつ、カーボンニュートラル化に向けた検討を進める予定です。

 これから再エネが普及していく中で、時間帯ごとに電力の余剰や不足する「ダックカーブ現象」が発生し、特に夕方以降に電力供給が不足します。今後、「ダイナミックプライシング」が本格的に導入されて時間ごとに料金単価が変われば、機器の制御によるコストダウンといったメリットが出せるようになると期待しています。そうした中、都市ガスの供給は、電気ほど時間帯ごとの変動が少なく、常に一定量の供給が可能な点がメリットです。電気とガスをベストミックスすることで、変動しない部分を都市ガスがカバーしながら負荷平準化を図っていくことが必要になると思います。

石川 その点においては、経済産業省が現在進めているVPP(仮想発電所)の公募実証事業に当社も参画しています。系統全体で再エネを有効に利用できるよう、エネファームのような分散型電源が太陽光発電の変動分を吸収する役割を担うことができます。これにより、エネルギー供給の安定化はもちろんですが、自家消費も考慮した最適なエネルギーマネジメントが可能になります。

中上 ところで、URさんと都市ガス事業者のコラボで開発された機器として、セントラル給湯という優れたシステムが誕生して普及しました。ところが、セントラル暖房は、なかなか普及していきませんでした。

尾神 住居形式や生活様式の違いもあり、ヨーロッパなどの海外とは事情が異なり、日本では、居住者が自らエアコンを購入したことで、空調設備が戸別に普及した経緯もありますね。
塩 日本は夏に冷房が必要なことから、冷暖房が行えるエアコンが普及しました。ここに、もしセントラル暖房があると、空調設備を二重に保有することになってしまいます。

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