住宅の歴史をつくった3社が集結 整備と再生に向けた今後の課題

2020年12月30日

既存の価値を伸ばす仕掛け 団地にコミュニティを醸成

中上 住宅の断熱改修でヒートショックが防止できるといわれますが、実は暖房がなければ、ヒートショックは起こりません。部屋だけ暖かくて風呂場が寒く、室温差があるからヒートショックが起きるわけです。日本で全館空調がデファクトスタンダードになっていれば、ヒートショックのような問題もなく、さらに住宅の省エネが進んでいたでしょう。
 続いて、集合住宅の改修や街づくりなどの取り組みをお聞かせください。

石川 当社を含めたガス業界による、集合住宅を対象とした取り組みを紹介します。都内の築40年が経過した団地の妻側(棟に直角な面)の3部屋を用い、断熱・気密レベルに差をつけた上で、高齢の被験者に冬季に滞在していただき、健康面の影響に関するエビデンスを収集しました。2年間で延べ57人の高齢者にご協力いただき、断熱・気密レベルと血圧の関係性を検証したところ、断熱・気密を高めて温熱環境を改善した住戸では有意に血圧が3㎜Hg下がる結果となり、健康に好影響を及ぼすことが分かりました。
 また、暖房設備の差異を把握するためエアコンと床暖房の比較も行いました。床付近の温度が高い床暖房の方が温熱環境の改善に寄与するとともに、被験者の動作時の最高血圧が低下する可能性を確認することができました。こうしたエビデンスについては、お客さまにさまざまなご提案をする際に、積極的に活用しています。

尾神 新たな取り組みとして、団地の再生と活性化を目指し、民間住宅地なども含めたエリア全体で取り組んでいるのが、横浜市磯子区の「洋光台プロジェクト」です。70年代に土地区画整理事業で丘陵地を開発し、賃貸・分譲の集合住宅と戸建て住宅を合わせて、現在1万800戸が住むエリアとなっています。当時は団塊世代のファミリー層を中心に入居されてきたニュータウンといわれる街です。
 ここで、ストック再生事業として行っているのが、既存エリアの活性化です。今ある豊かな空間や人材を発見して、その価値を伸ばしていく仕掛けの一つとして、団地内にコミュニティスペースを設置し、工芸体験やコミュニティカフェといった住民同士で活動できる場をつくりました。最初は当社がきっかけをつくりますが、最終的には、街に住んでいる住民の方々がこうしたイベントなどを引き継いでいけることが、今後、コミュニティが醸成していく上で必要だと考えています。

 当社は、戸建て住宅を中心に手掛けていますが、1戸単位でZEHにして、それを街レベルに広げ、埼玉県朝霞市で商業施設や保育所を併設した「スマートハイムシティ朝霞」として展開しています。住宅の設備・機器類の交換や改修によるリノベーションについては、故障などのタイミングで建物の改修よりは実施しやすいです。「2050年カーボンニュートラル」を実現する上でも、こうした街づくり計画の中に、今からビジョンに組み込んでいく必要があると思います。

中上 団地の断熱改修はどうでしょうか。ものすごい手間とコストがかかる分、大幅なエネルギー消費量の削減効果が出ないと、投資回収が困難でしょう。
尾神 現実的には、断熱改修は困難な場合がありますが、可能であれば住戸を改修するタイミングにて断熱を実施しています。なお、躯体のコンクリートは蓄熱性が高く、かつ集合住宅の中住戸は、上下や隣の住戸が暖冷房している際は、熱損失が少なく断熱的に有利だと思います。

 確かに、断熱改修など、建物の躯体に関わる改修工事は大変です。新耐震基準を満たしている住宅は、断熱改修をする余地があると思いますが、満たしていない住宅については議論が必要です。こうした物件は、今の住宅との間取りの違いや段差を解消して高齢者対応のバリアフリー化も必要になるなど複数の課題があって、さらに大変です。

尾神 例えば、窓のサッシをスチールからアルミに換えるだけでも、外気の出入りを減らせます。
塩 そうですね。窓やサッシの取り換え用パーツは規格化されていているので、一日程度の工事で簡単に取り換えられます。

中上 2割、3割の省エネができる技術はそんなにありません。ところが、1%、2%のものは、ごろごろしています。まずは、隙間の目張り、気密性の高いサッシや二重窓への変更など、小さな積み重ねが快適性や利便性の向上とともに、省エネにもつながります。次に、新しい技術の導入はいかがでしょうか。

石川 当社グループが、19年に発表した経営ビジョン「Compass2030」で、スマートメーターを活用した新たなサービス基盤の展開を項目の一つに挙げており、20年12月に大阪ガスさん、東邦ガスさん、当社の3社はスマートメーターシステムの共同開発に合意したことを公表しました。データの活用事例の一つを紹介すると、当社の社宅である横浜市磯子区の集合住宅(24戸)で実証試験を行い、HEMS(家庭用エネルギー管理システム)での「見える化」による約7%の省エネ効果と、節電要請による行動変容で49~58%のピークカットがそれぞれ確認できました。このような結果も踏まえ、お客さまにエネルギーの使用実態の提供や省エネアドバイスなどを行っています。

家族連れを中心に入居が進み、団地周辺は活気に満ちていた

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