全ては需要家のニーズのために 総力上げて挑んだ大型プロジェクト

2021年1月1日

岸本淳(営業本部産業エネルギーソリューション部副部長産業スマートエネルギー営業グループマネージャー)

山田有喜(エンジニアリング本部地域エネルギー設備部建設プロジェクトグループ課長)

大塚政勝(エンジニアリング本部地域エネルギー事業部清原スマートエネルギーセンター所長)

既存の工業団地で大幅な環境負荷の低減とエネルギーのレジリエンス向上を図った清原プロジェクト。TGESが本事業を完成させるまでには、多くの壁が待ち受けていた。

幾重ものパターン検討 需要家の不安解消に注力

「工業団地でスマートエネルギーをできないか」――。

 東京ガスの中で計画が持ち上がったのは、東日本大震災後までさかのぼる。そもそも分散型電源を核とするスマエネ事業は、電気だけではなく熱需要の高い工場が多い場所でなければ事業の実現は難しい。この条件を満たしていたのが、内陸型工業団地としては国内最大級の規模を誇り、なおかつ食料品、医療品、工業製品などさまざまな業種の工場が集積する清原工業団地だった。

 本事業に企画立案から携わり、さまざまな条件下にある需要家との合意形成を図ってきたのが、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)産業エネルギーソリューション部の岸本淳副部長だ。

 岸本副部長は2003年に東京ガスに入社し、これまでコージェネレーションシステムなど産業分野の開発営業に従事してきた。本事業の構想検討当初から16年までは、東京ガスの宇都宮支社で産業分野向けの営業担当として、自身も栃木県と日ごろから付き合う機会を持ち、17年からTGESに出向。企画段階から供給開始、そして現在も事業を担当している。

 これまで清原工業団地内の企業は、それぞれ電力会社と契約を結び、自前のボイラー、自家発電設備などを持ち、工場を操業していた。電力供給のプロフェッショナルである既存の電力会社から切り替えるということは、需要家としても大きな決断を迫られることになる。

 岸本氏は当時の状況について「そもそも工場にとってエネルギーは血液であり、その供給設備は心臓のようなもの。本事業に参加してもらえるよう、多くのお客さまに提案いたしましたが、皆さまが同様に抱えていた最大の懸念は、『TGESに切り替えても安定供給はこれまで同様に維持できるのか』という点でした」と振り返る。

 さらに昨今は大型台風の列島襲来が相次いでおり、レジリエンスやBCPの観点からもエネルギーの多重化は大きな経営課題としても挙げられる。こうした需要家が抱える心配にどう応えたのか。

「提案段階では、お客さまのご要望に応じてさまざまなパターンでの検討が必要となりました。エネルギー需要の想定も提案ごとに変わるため、そのたびにプラント設計の再検討も必要となります。参画する事業者が確定するまで数年間にわたり積算を見直し、再提案を繰り返し、多くの苦労を重ねたことは印象に残っています」(岸本副部長)

 粘り強い調整のかいがあって、16年には需要家との合意を取り付けることができた。それはひとえに、東京ガスグループがエネルギーの安定供給を続けてきたこれまでの実績があったからなのかもしれない。

「東京ガスグループはガス供給だけではなく、都市部で地域熱供給事業を行うなど、約半世紀にわたり技術と知見を積み上げてきています。また、参加いただいた各工場では、これまで都市ガスを長きにわたりご利用いただいていたことも信頼関係につながっていると思います。とはいえ、本事業に類する規模の電熱供給は初めてです。お客さまと多くの話し合いの場を持ち、十分な技術検討により、最終的に合意を得ることができました」。岸本副部長は目を細くしてそう語った。

岸本淳 副部長

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