【特集2】事故から10年の現場を取材 廃炉目指し着実に前進

2021年4月3日

林立するタンクの異様さ 処理水問題巡り質問集中

海側エリアの次はバスに乗って3・4号機付近へ。建屋のそばでは、地下水の流入を防ぐべく設けられた陸側遮水壁(通称・凍土壁)のパイプを間近に見ることができた。その後は3号機へ移動し、3号機と2号機の間を歩いて移動。特に3号機は建屋上部が派手に崩壊したこともあって、剥き出しのコンクリートや折り曲がった鉄骨など、爆発の爪痕が残されていた。

爆発の生々しい爪痕も残っている(3号機建屋)

再びバスに乗り、構内南側に広がるG1タンクエリアへ。タンク内に貯蔵されているのが、処分方法を巡り議論が紛糾している「ALPS処理水」だ。

処理水は、雨水や地下水が建屋内部に浸入し、高濃度の放射性物質と触れることで発生する汚染水を、放射性物質を取り除くよう化学処理した水のこと。この処理水はG1タンクエリアをはじめとする構内各所で保管されており、21年2月18日時点での貯蔵量は約125万t。見渡す限り広がるタンク群はまさに異様な光景だ。

こうした処理水タンクは敷地中に置かれている(G1タンクエリア)

多核種除去設備の建屋。中で汚染水の処理が行われている

北側で造成が進む廃棄物関連施設を回った後に、ボトルに詰められたALPS処理水を見ることができた。発する放射能は、温泉の素として100円均一で売られているラジウムボールよりも低い。またトリチウムは日本も含めた世界中の原子力発電所から放出されている。

ALPS処理水のサンプル。放射線量はごく微量

こうした科学的根拠を基に、政府は処理水の海洋放出を検討するが、風評被害を懸念する農林水産業者からの反発は根強い。実際、ブリーフィングでも処理水問題についての質問が集中するなど、社会的な関心の高さをうかがわせた。

空間線量は着実に低減 デブリ取り出しの高い壁

1〜4号機を望む高台の空間線量は0・1ミリシーベルト(mSv)程度で、最も建屋に近づいた3号機付近でも0・2mSv程度だ。建屋付近は1F構内でも比較的高い数値だが、取材後に放射線被ばく量をチェックすると0・04mSvの文字が。

これは胸部レントゲン撮影での被ばく量と変わらない。敷地内の96%は軽装備での移動が可能。放射線対策は進んでいる印象を受けた。

それでも、東電担当者は「10年を振り返って現在は何合目か」との質問に、「ようやく一歩を踏み出せる準備ができてきた段階」と回答した。

1~3号機内には、メルトダウン(炉心溶融)で溶け落ちた燃料デブリの問題が控えている。デブリ取り出しに利用する英国製のロボットも、コロナ禍の影響で日本への到着が遅れている。「できる所から進めていく」と話すものの、一筋縄ではいかないだろう。

多くの課題が山積する1F。20〜30年後を予定する廃炉作業に向けてスピードは遅いかもしれないが、着実に前進しているのは間違いない。

ゆっくりでも一歩ずつ踏み出していくしかない。

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