脱炭素目指す「一丁目一番地」技術ヒートポンプを最大活用へ

2021年6月5日

【ヒートポンプ蓄熱の新潮流/第2回

誰もが認める、世界をリードする日本のヒートポンプ技術。

空調や冷凍など、この技術を用いたアイテムは枚挙にいとまがない。

松本真由美氏が、前川製作所の町田明登執行役員に最新事情を聞いた。

松本真由美 東京大学客員准教授

松本 ずいぶんおしゃれな本社建屋ですね。建築物の環境性能が非常に高い社屋だと聞いています。

町田 2008年にここ門前仲町(東京都江東区)にある本社の自社ビルを建て替えました。空調のシステムを工夫していて、当時主流だったビル用マルチエアコンのような個別分散空調方式ではなく、当社のヒートポンプを使用して冷温水を循環するセントラル方式を採用しました。建築施工を請け負っていただいた大手建設会社の技術協力を得ながら、地中熱を利用したヒートポンプの仕組みを取り入れています。

 地中熱は地中に埋め込んでいる基礎杭にチューブを巻き付けて熱を取り出しています。一方、室内側の空調システムは、床下全面からドラフトの少ない風を吹き上げるようなシステムで空調しており、省エネ性と快適性を両立しています。この技術の一部は最新の建築物にも生かされています。

松本 ドイツで普及している、冷暖房機器をあまり使わないパッシブハウスの仕組みに似ています。機械設備類はどこにありますか。

町田 ヒートポンプ設備や氷蓄熱システムは屋上に、受電設備・非常用電源・サーバーなどの電気設備は3階に設置しています。こういった設備は地下フロアに置くケースが一般的ですが、(建屋前には)川が流れていて、万が一の津波対策を考慮して電気類の設備は高いフロアに設置したのです。

松本 氷蓄熱を使っているのですか。珍しいですね。

町田 これも当社開発のシステムで、ダイナミックアイス氷蓄熱システムを使っていることも特徴の一つですね。通常の水蓄熱の冷水よりも水温が低く、その冷熱で室内の除湿などに利用しています。

環境に優しい自然冷媒 アンモニアとCO2

松本 ヒートポンプ設備は冷媒とセットとなる技術です。昨今、この冷媒の規制が厳しくなっています。そこで、GWP(地球温暖化係数)値の低い冷媒が注目されています。ここのヒートポンプ設備の冷媒には環境に優しい自然冷媒を使っているそうですが。

町田 はい。当社では代替フロン冷媒以外に、自然冷媒、つまりアンモニア、二酸化炭素、水、空気、炭化水素―の五つの冷媒を用いた技術開発に取り組んでいます。いずれもGWP値は1程度と、地球温暖化対策としては、極めて環境に優しい冷媒です。それぞれの冷媒が得意とする温度帯は異なりますが、その中でも、ここのビルではCO2冷媒とアンモニア冷媒を使っています。

松本 地球温暖化の観点で目の敵にされているCO2ですが、冷媒としては環境に優しいわけですね。

町田 そうです。CO2冷媒は家庭用給湯機のエコキュートで本格的に利用されました。従来の冷媒に比べて圧力が高く、技術開発が困難でした。そうした課題に対して、電力会社を中心とした日本の技術力によってクリアしてきました。こうして開発されたCO2冷媒を使った業務用エコキュートがここでは導入されています。

松本 もう一つの冷媒であるアンモニアは、国のゼロエミッション宣言で、火力発電用燃料としてにわかに注目され始めています。冷媒分野では既に技術が活用されているわけですか。

町田 はい。アンモニア冷媒は、空調や冷凍分野に至る広範囲の温度帯に対応でき、しかも単位動力当たりに得られる熱量が高いという特徴があります。

松本 効率が良いのですか。

町田 理論COPで言いますとアンモニアに勝るものは今のところ存在していません。ただ、毒性や可燃性があるので取り扱いが少し難しいのです。そのため、高圧ガス保安法の下で、しっかりと安全面を考慮しながら運用しています。

ここ20年あまりで、当社製設備で運転中に起きた重大事故はありませんが、メンテナンス時には設備を開放点検しますので注意が必要です。また設備の経年劣化に伴う配管からの「冷媒漏れ」もケアしないといけないため、その辺の管理も大切ですね。

 東京都内の公的な機関で、当社のアンモニア冷媒式空調設備が導入されているケースがあります。

町田明登 前川製作所技術企画本部執行役員

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