【特集2】全国で進むネットワーク強靭化 実現の陰にある知恵と工夫

2021年6月3日

災害や事故から需要家を守るべく、電力・ガスインフラの整備が全国で進められている。工期、予算、コロナ対策など数多くの制約を乗り越えるため、事業者の知恵と工夫が試される。

地震、台風、集中豪雨―毎年のように各種災害に見舞われる日本は世界でも類を見ない災害大国だ。特に台風や集中豪雨の被害は、年を経るごとに深刻化している。

2018年に襲来した台風21号では西日本が、19年に襲来した台風15・19号では東日本が甚大な被害を受けた。強風が発生すれば送配電インフラはなぎ倒され、広範囲で停電が発生。集中豪雨では河川が氾濫し、都市ガス導管網が水没する事態も生じたのは記憶に新しい。

また数年おきに震度6を超える地震も頻発している。11年の東日本大震災では原発事故に加えて太平洋沿岸の火力発電所が相次いで停止。さらに16年の熊本地震では土砂崩れの影響で鉄塔や配電設備に被害が生じたほか、18年の北海道胆振東部地震では、北海道全域の電力が停止するブラックアウトも発生した。

政府も昨今の異常事態を踏まえて、各地域の電力グリッド同士を接続することで緊急時に電力を融通する「地域間連系線」の整備を進めている。これまで電力系統整備は各電力会社が自社の電源や需要に応じて整備を進めてきたが、現在は電力広域的運営推進機関が中心となり系統整備の計画を立案。それを国が承認し、各電力会社が工事を担うという「プッシュ型」と呼ばれる整備方法へと変化している。

柔軟な電力融通が可能になることで、需給ひっ迫の緩和だけではなく全国各地に設置された太陽光・風力発電などの再生可能エネルギーを需要地へ大量に送ることも可能となる。地域間連系線の整備により地方の再エネポテンシャルを引き出す効果も期待される。

電力・ガスで完成ラッシュ 進むインフラ網のループ化

災害が大型化・激甚化する緊急事態下に置かれても、エネルギー事業者には「安定供給」を続ける使命が課せられている。これを実現するために電力・ガス事業者は、ネットワークインフラの整備を進めてきた。そして、20年代に突入し、事業者が積み上げてきた努力が実を結ぼうとしている。

電力業界では、3月31日に東日本・西日本の電力グリッドをつなぐ新信濃周波数変換設備(FC)と、飛騨信濃直流幹線が完成した。

東日本大震災の影響で太平洋沿岸に位置する発電所が相次いで停止したことで、電力需給ひっ迫が発生。新信濃FCおよび飛騨信濃直流幹線は、その対策として東西間の電力融通量を増やすべく計画された電力系統だ。東京電力パワーグリッド(PG)および中部電力PGが主体となって本来10年かかるともいわれた難工事を、わずか5年で完成させた。

九州地域では、九州北部と南部をつなぐ新たな50万V幹線、日向幹線の整備が進んでおり、22年6月に完成予定だ。整備が終了した暁には九州一円の幹線網がループ化され、万が一災害などで送電を中止せざるを得ない事態に陥った場合にも、違うルートから電力供給を続けることができる。

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