動き出したEV充電ビジネス 脱炭素を足掛かりに事業化加速

2021年8月10日

EVの普及とともに、整備が進んでいるのが充電設備だ。その数は全国で3万5000台以上に及ぶ。

充電設備は設置するだけでなく、使用電気を再エネにしたり、特長を生かすことが求められている。

EV普及とともにこうした充電風景が広まりそうだ

 電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の普及に伴い、充電インフラの整備が進んでいる。富士経済によると、国内では普通充電器が2万7600台、急速充電器が7835台設置されており、合計3万5000台超に上る。拠点数で換算すると約2万カ所に及ぶ。ガソリンスタンド(SS)が2019年に3万カ所を切るなど減少の一途をたどっているのに対し、インフラが徐々に整備されつつある。世界的な脱炭素化の流れもあり、自動車のEVシフトは急速に進むものとみられる。

EV充電サービスが拡充 合わせて新ビジネス始まる

そうした中、EVやその充電を巡る新ビジネスの動きが活発だ。コスモ石油マーケティングは、e-Mobility Powerと協業し、系列SSに急速充電器を設置。EVカーシェアリングとともに、充電スタンドを運営する。電気は、自社サービスの「コスモでんきビジネスグリーン」を使用。グループ会社のコスモエコパワーの風力由来のCO2実質フリー電力により、EVを走らせることができる。

伊藤忠エネクスは、自社レンタカーサービスにEVを加え、EVカーシェアリングサービスを開始する。さらに、家庭向けに電力とセットでV2H(ビークルtoホーム)システムを電力とセットで販売するほか、小型EVのサブスクサービスも計画する。

デルタ電子は独自の次世代型EVステーション「Delta EV Charging Station(Yokohama)」をオープンした。同店舗は自社のEV関連設備を導入し、ショールームのような役割を果たす。充電用決済システムも独自に立ち上げ、プラットフォーム提供に注力する。

現在、EVシフトが活発なのは欧州や中国だ。今後、日本も車種のラインアップが増えてくると、この流れはさらに進んでいくだろう。その時、多くのEVや充電を巡る新ビジネスが生まれてくるとみられる。

【INTERVIEW】/四ツ柳尚子 e-Mobility Power社長

先行投資でインフラ整備進める 白地解消とキャパ増強へ

充電インフラの整備を担うe-Mobility Power。初代の社長に就任した四ツ柳さんに話を聞いた。

―会社のコンセプトとビジネスモデルを教えてください。

四ツ柳 充電インフラの整備・拡充と充電サービスを行う会社です。インフラ事業としての性格が強く、事業モデルとしては、先行投資モデルになります。現在は、先行投資のフェーズで、充電器の拡充を進めています。売上は、個人・法人含めたプラグインハイブリッドやEVユーザーの会員からの月額料金になります。最大の販売チャネルは自動車ディーラーであり、料金プランは各社さまざまですが、当社の直営会員向けには「急速充電」「普通充電」「併用」の三つのプランを用意し、月会費と使用に応じた従量費をいただいています。また、非会員向けにビジターメニューも用意しています。

―インフラの整備状況は。

四ツ柳 急速充電は全国に7000台程度、普通充電は1万8000台程度が当社の充電ネットワークに接続されています。代表的な設置場所は自動車ディーラー、高速道路、コンビニ、ショッピングモールなどです。

―充電時におけるガソリンとの違いは。

四ツ柳 危険物の取り扱い対象ではないのでセルフ充電が基本です。

―充電渋滞が発生するケースがあります。時間帯別メニューの値差によって渋滞は回避できますか。

四ツ柳 ダイナミックプライシングによって多少の緩和は可能かもしれません。しかし、高速道路が混雑する日に充電器も混みますので、充電インフラ拡充の方が効果的だと考えています。年末年始の高速道路が混み合うように、人間の行動が伴う以上、行動変容での対処は限界があります。充電のためだけに生活様式を変える人は少ないのではないでしょうか。

適材適所の整備が肝要 規制緩和で普及に期待

―充電器拡充の具体策は。

四ツ柳 ユーザー利便性の向上に向け、大きく二つの考え方があります。一つは全国津々浦々、面的にカバーし、白地を解消すること。もう一つは需要密度に応じて充電設備のキャパシティーを増強すること。前者は、これまでの政府補助金の後押しもあり、現時点で世界屈指のカバー水準にありますが、残る一部の白地エリアを着実に埋めていきます。他方、渋滞の発生エリアでは、充電口数を増やすなどの対応が必要です。1スポットに6口配置し、複数の自動車に最適給電できる新しい充電器の設置も進めています。

 また、EV普及には適材適所での整備が肝要です。大型のショッピングモールやゴルフ場は滞在時間が長く、時間をかけて充電する普通充電の方が適切です。急速充電の場合、充電後、次のユーザーに充電場所を譲らないといけません。

―急速充電が増えすぎてしまうと、既存の電力系統に大きな影響を与えることになりませんか。

四ツ柳 現状の電気自動車の普及台数は30万台程度。仮に10倍普及しても、いまの日本の電力系統網なら、問題はないでしょう。

―今後の課題は。

四ツ柳 規制上、充電器設置が困難なケースがあります。電気事業法上、「一需要場所には一電気引き込み線」という規制がありましたが、自動車向けの給電設備を整備する際に、その規制が緩和されたことで、設置しやすくなった事例があります。電気に限らず、土地活用などの規制緩和は、マンション向けの設置や土地制限のある都心部での整備における課題解決につながることが期待できます。

 昨今は技術発展が目覚ましく、今後、自動運転が普及すれば、就寝中の夜間に車が勝手に動き出してステーションで充電する。そんな世界を夢想したりします。

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