鬼首地熱発電所をリプレース 末永く地元と共存できる存在に

2022年2月13日

【Jパワー(電源開発)】

東北屈指の温泉地のそばで40年以上にわたり運転を行ってきた鬼首地熱発電所。

グループの力を結集し、環境保全にも取り組みながらリプレース工事を進めている。

東北新幹線古川駅から北西に約‌60‌km。秋田・山形の県境にほど近い宮城県大崎市の鬼首カルデラに「鬼首地熱発電所」がある。宮城県内で唯一の地熱発電所だ。駅から発電所に向かう途中にある鳴子温泉郷は、400を超える源泉数を誇り、日本にある11種類の泉質のうち9種類もの泉質が集まる。みちのく随一の湯治場としても名高い温泉地だ。

湯けむりが風情を醸し出す鳴子温泉郷

この地熱エネルギー豊かな土地で鬼首地熱発電所が運転を開始したのは1975年。出力1万5000kW、東北地方の主要な地熱発電所として電力の安定供給に貢献してきた。40年を経てもなお、地下には今後も利用できる豊富な地熱資源があることが確認されたため、高経年化した設備の更新を決定。2017年に運転を停止し、19年からリプレース工事に入った。運転開始は23年4月の予定だ。

工事では、発電用の蒸気を得ていた9本の生産井と、取り出した熱水を地下に戻す8本の還元井を全て埋め戻し、新たに5本ずつ掘削する。蒸気タービン・発電機の性能が向上し、生産井を9本から5本に減らしても発電出力はリプレース前と同等の1万4900kWとなる。

グループの力を結集 より安全に配慮した設計

訪れた21年11月14日は、発電所本館の建設工事、生産井・還元井の掘削工事と配管基礎工事などを進めていた。ちょうどその日、5本目の生産井を掘り当てたところで、能力評価に移る現場には慌ただしくも活気が感じられた。

掘り当てた報告を受け、生産井の前で笑顔の茅野所長

同発電所の約13万9000㎡の敷地は、地熱活動が活発な自然噴気地にある。地表の温度が高く、硫化水素の噴出が認められる場所もある。敷地内は安全対策に万全を期し、地下50m地点の地温や地震、振動、傾斜を常時監視。異常が確認されると警報を出し、作業員を安全なエリアに避難させる。特に地熱活動が活発なエリアへの立ち入りは事前許可制にして記名を徹底させている。

リプレースではさらに安全性を高める設計にした。地表の温度が高いエリアに点在していた生産井と還元井をより安全なエリアに集約して発電する。

同発電所は、地下1000~1600mに滞留する約250℃の熱水を利用する。生産井は、一度地上から圧力をかけて減圧すると蒸気混じりの熱水が継続して噴出する。これを気水分離器で蒸気と熱水に分け、1時間に約130tになる蒸気のエネルギーでタービンを回し発電する。蒸気を一度だけ利用するシングルフラッシュ方式で、タービンを回した後の蒸気は復水器で冷却して温水に戻す。この温水は、蒸気と分離した熱水と共に還元井から地下に戻す。地下に戻った温水は年月をかけ、岩盤の割れ目を通って、地熱によって再び高温になり生産井から噴出する。地熱発電は天然の資源を循環再利用する、究極のエコ発電なのだ。

建設中の発電所本館。奥に見えるのは還元井

発電所では生産井を5本同時に使用して運転開始する計画だ。発電条件に合う生産井を掘り当てるのは難しいといわれる中、5本の生産井を全て掘り当てた。

茅野智幸所長は「地熱発電の開発では、資源開発会社が蒸気を供給し、電力会社が発電を担うことが多い。Jパワーは掘削から発電までをグループ内で行うので、ノウハウが蓄積されます」とグループの強みを話す。5本の掘削が100%の成功率になったのも、長年の知見の賜物だ。「一気通貫で技術が磨かれて、次の現場にも生かされます」

Jパワーは新たな地熱発電所建設に向け、近隣の高日向山地域で資源量調査に取り組んでいる。

築いてきた地元との信頼 地球と環境に配慮した発電

鬼首地熱発電所は環境や地域との共生にも力を注ぐ。1975年に運転を開始する前から、鳴子温泉郷のひとつ、鬼首温泉の源泉のモニタリングを毎月欠かさず続けている。運転中だけでなく、運転を停止している現在も源泉の温度や成分、湯量などが変わらないことを確認し、データを提供し続けている。温泉は地域にとって大切な観光資源。客観的なデータを示し、コミュニケーションを図ることで信頼関係を築いている。年に数回の事業説明会も設け、対話の場を作ってきた。

調査開始から数えると60年。鬼首で発電を続けてこられたのは、代々の所員がこうして地元との信頼関係を築いてきたからだろう。

近隣の川はかつて硫黄鉱山だったことを思い起こさせる 

信頼を得る努力は発電だけでなく、環境保全にも及ぶ。発電所は栗駒国定公園内に立地しているため安全教育と同じくらいの重要度で自然保護に関する入構教育を行う。気づかないほど小さな希少高山植物や、クマタカが生息しているので、新しい工事関係者が加わるたびに入構教育を行っている。

火山国である日本は世界第3位の地熱資源量を誇る。地熱発電は太陽光や風力のように自然条件に左右されず安定的な運用ができる再生可能エネルギーとして、大きな期待が寄せられている。カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みの方向性と道筋を掲げた「ブルーミッション2050」では、25年度までに17年度比で150万kW増の再エネの新規開発を目標としている。

国も再エネに力を入れている現在、鬼首地熱発電所でも生産井を増やして、発電量を上げればいいのでは? と疑問を投げかけてみた。茅野所長は明確にこう答えた。「これからも長い期間発電を続けるためには、地球の恵みである地熱資源を適正な量で大切に利用し、自然環境にも地球にも配慮して発電していくことが大事なのです」

1 2