【電力中央研究所 松浦理事長】社会に受容される 持続的なエネシステムの実現へ 戦略的に研究推進

2022年4月1日

カーボンニュートラルによる電気事業の環境変化を見越してさまざまな研究課題を設定。研究成果を着実に社会実装し、電気事業と社会に貢献していく。

【インタビュー:松浦昌則/電力中央研究所理事長】

まつうら・まさのり 1978年京都大学工学部卒、中部電力入社。2013年取締役専務執行役員、16年代表取締役副社長執行役員電力ネットワークカンパニー社長。18年6月から現職。

志賀 2050年カーボンニュートラル(CN)が今や世界全体の共通目標となり、先進国にはNDC(国別目標)の見直しが求められ、日本は30年46%減と大幅に引き上げました。ことに電力業界には脱炭素電源の拡充などCN対応の要請が強まる一方、足元ではエネルギーの安定供給への不安や電気料金の上昇といったさまざまな懸念も出ています。

松浦 電力業界の対応が注目を集めていることは承知していますが、日本全体のCO2排出量のうち発電部門は約4割です。残り6割の産業、家庭、運輸部門なども含め社会全体でどのような対策を講じるかが重要です。当所としては電気事業の課題解決に向けた研究が中心ですが、われわれの成果や技術をほかの部門にうまく適用できないかということも、今後よく考えていく必要があると思います。
 昨年は第六次エネルギー基本計画の策定や、英国グラスゴーでのCOP26の開催があり、脱炭素の必要性に特化した報道が目立ちました。しかし、S(安全性)+3E(環境性、経済性、供給安定性)が基本だということを改めてしっかりと認識すべきであると考えています。

社会要請見越し先手 多様な可能性検討

志賀 昨今の脱炭素キャンペーンともいえる報道がわが国の産業政策をゆがめ、将来の国民生活に負担を強いないか危惧しています。
 ここ数年は特に金融機関の姿勢が脱炭素化に大きく寄ってきている点も気になります。

松浦 21年初頭の電力需給ひっ迫の頃から燃料の問題が注目され始めましたが、こうしたエネルギーの安定供給が脅かされる事象は今後の日本社会全体にかかわる重要な課題です。
 EU(欧州連合)タクソノミーに、原子力と天然ガスが含まれる方針が表明されており、さまざまな条件が設定される見込みですが、EUがこうした方向性を打ち出したことには大きな意味があります。
 ではどのような研究にリソースを割くべきなのか。石炭火力については50年80%減目標の頃から縮減の路線は見えており、今後どう石炭を使うのかが課題となっていました。当所では19年度に策定した中期経営計画において、「持続可能で社会に受容されるエネルギーシステム」の実現を50年にわが国が目指すべき姿とし、その実現に向けて七つの目標を定め、その一つとして「ゼロエミッション火力」を既に掲げておりました。
 ゼロエミッション火力に関連する研究として、当所では以前より石炭火力でのアンモニア混焼に関する研究を進めてきており、アンモニア混焼率20%まではNOXの抑制と発電効率の確保が実証できています。この成果を踏まえて火力発電所実機において、混焼率20%から徐々に高めていき、その後、水素混焼にも挑戦することを計画しています。研究の成果は課題が生じた時にすぐに創出できるものではありません。あらかじめさまざまな選択肢を用意し、可能性を吟味しておくことが重要です。

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