【電力中央研究所 松浦理事長】社会に受容される 持続的なエネシステムの実現へ 戦略的に研究推進

2022年4月1日

研究成果の社会実装へ 外部との連携を強化

志賀 DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)などでオープンイノベーションへの注目度がさらに増していますが、外部機関との連携についてはどのような方針でしょうか。

松浦 これまでも外部連携は進めており、先に紹介したCO2回収型ポリジェネレーションシステムも、メーカーや大学などと共同で取り組んでいます。最近では太陽光発電出力予測システムの開発、CO2排出を削減するコンクリート製造、発電プラントなどの材料余寿命評価サービスなどにおいて外部連携の実績があります。
 NEDOのグリーンイノベーション基金事業でも社会実装が掲げられており、外部機関との共同での応募を念頭に取り組みを進めています。社会実装の具体化や外部資金獲得などの観点から、今後もさまざまな形で外部連携を進め、新たなアイデアの実証などを進めていきたいと考えています。
 海外機関との連携も着実に進めており、EDF(フランス電力)、OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)、米国のEPRI(電力研究所)などと協定を結んでいます。EPRIとは当初は原子力中心でしたが、最近では再エネや系統分野も含めて連携していくことを協議しています。

志賀 昨年は松永安左エ門翁が電中研を設立して70周年でした。松永翁は設立に際して「産業研究は知徳の練磨であり、もって社会に貢献すべきである」と、産業研究の重要性を述べたと聞いています。その原点は不変でしょうか。

松浦 変わりありません。研究のための研究ではなく、実際に社会の役に立つ研究を引き続き進め、成果を社会実装していきたいと考えています。
 中期経営計画においても、社会実装を掲げています。最近、さまざまな場面で社会実装という言葉が出てきますが、われわれとしては以前から念頭において研究活動を進めてきています。研究は社会の役に立ってこそ価値があると考えています。

志賀 研究機関として情報発信も重要ですね。

松浦 研究成果を踏まえた実データやエビデンスに基づいた分かりやすい情報発信が重要だと繰り返し所内に呼び掛けています。例えば国内では、エネ基で示した再エネ比率30年36〜38%は「不十分であり、もっと増やせる」といった主張がよく展開されます。しかし前提条件の実現可能性に疑問を抱くものや、十分なデータが示されていないというものも散見されます。当所は研究機関として客観的・科学的な姿勢を保ちつつ、多様な媒体や広報手段なども適切に活用し、効果的な情報発信に引き続き努めていきます。
 また、情報発信という観点では、研究活動に必要な資金を継続的に確保していくために、われわれが考える研究課題や研究力をきちんと電力会社や国などに説明してご理解いただく必要があります。そのためには、プレゼンテーション力をより高めていくことも必要であると考えています。

志賀 50年CN達成のためにはあらゆる分野での技術への挑戦が不可欠であり、研究機関への期待は非常に大きいと思います。

松浦 期待に着実に応えていくためには、高い能力を有する優秀な人材を獲得し、彼らが腰を落ち着けて研究ができる環境を提供することも大切だと思います。当所には多くの優秀な人材が入所し、活躍しています。これらの人材を生かしつつ、研究機関としての総合力を発揮し、CNや電力の安定供給など、電気事業や社会の課題解決に資する成果を創出し、期待に応えていきます。

志賀 「持続可能で社会に受容されるエネルギーシステム」の実現に向けた研究の推進へ、引き続き理事長の手腕に期待しています。本日はありがとうございました。

対談を終えて

菅義偉前首相の「2050年ゼロエミッション」宣言以前に、電力中央研究所は中期経営計画で「ゼロエミッション火力」を研究目標の一つに掲げていた。事程左様に研究開発とは、事象が起きてから始めてすぐに成果を出せるものではなく、早め早めにさまざまな選択肢の可能性を加味して取り組むことが重要と説く。目指すは、「持続可能で社会に受容されるエネルギーシステム」の実現だ。そのため組織改革を断行し、戦略的な研究の推進と成果の社会実装などを目指す。(本誌/志賀正利)

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