【記者通信/5月10日】原子力世論を変える秘策 気鋭コンサルに学ぶ「議論法」

2022年5月10日

◆対話で必要な「メタ正義感」の使い方

ーー対立者との対話の方法について、ポイントを教えてください。批判されると、感情的に怒るのは、普通の人間です。倉本さんはどう乗り越えているのですか。


「ムカつく!」という気持ちは大変、大事なものだと思います。私もSNSでつっかかられると毎回ムカついていますよ(笑)。別にその場では自分の立場の正当性を強い言葉でぶつけてピシャリとやってしまってもいいと思います。

ただし大切なのは、冷静になった時に「相手が言っていることの内容」でなく「相手の存在意義」に考えを巡らせて、自分自身の足りないところに気づくことです。その点を改善しようと取り組んでみる。そんな時に、はじめて「あの人につっかかってもらえて進歩があったな」と思えるようになる。こんな順番が大事だと思います。対立者に勝ちたいという気持ちがあるなら、その人よりも進歩したことが「勝つ」ことではないでしょうか。また常に「メタ正義感」を考えると、そうした怒りに振り回されることもなくなります。

――本や意見への反響の中で「妥協をするだけではないか」という視点の批判はありませんでしたか。

本のコンセプト的にそう誤解されやすいとは思いますが、実際に本を読んでもらった人からは、そういう感想は少ないですね。むしろこの本は「本来仲間になれる人と仲間になることで、ただ反対して騒ぎたいだけのような人を黙殺して、社会をちゃんと前に進ませる方法」についてかなり分量を割いて書いており、そこの部分が痛快だったという感想をもらっています。

社会の雰囲気も変わりつつあります。私はTwitterなどのSNSをやっています。そこで、いかにも「左」の人とか、何でも反対を主張するメディアに勤める記者が、本の刊行後に私をフォローしたり、意見をくれたりすることが増えています。

日本全体、そして自分の身の回りの問題が何も変わらない状況を見て、「このままではいけない」と、多くの人が立場を超えて考えるようになっていることの現れでしょう。過激な議論は飽きられて、「××が悪い」という批判が馬鹿馬鹿しくなって、だんだん真ん中の常識の部分に人が集まってきている印象です。これまで威勢はいいけど、仲間内で盛り上がって終わる、言葉だけのムーブメントはたくさんありました。しかし、その動きは真ん中の、その問題に関心が関心のない人には、なんの関係もありません。

問題が解決するには、ステークホルダーの意見が具体的な解決策を支持していることが必要ですが、いろんな場面でそうした兆しがある。先ほど述べた「われわれ感」とか「自分ごと」として、物事を考えようとする人が増えているのでしょう。この動きを活かして、社会に不満を撒き散らす人には、距離を置いたり、気づかないふりをしたり、力を持たせないように注意して、話の通じる人や問題を解決しようと努力する人を集めていけばいいと思うのです。

当初は数の上では少なくても、問題解決を目指す人をある程度のまとまりにできれば、いろんな形で問題が解決に向けて動きだすように思うのです。一つの解決が次の解決を生んで、日本全体急激に動き始めるかなという期待をしています。

日本のエネルギー問題も、政治的対立に多くの人がうんざりして、「問題を解決しようよ」という声が強まっているように、私は感じています。

ーーエネルギー業界、特に電力業界では、原子力をめぐる政治的な騒動によって、さまざまな問題が発生しています。

私が外から観察すると、事業者も、消費者も、政治家も、行政も、反原発の政治活動家も、エネルギーのステークホルダー(関係者)それぞれが、自分の主張ばかり行って、一番大切なことに向き合わず、活動の方向がずれている印象があります。

エネルギーをめぐっては前提条件を理解し、それでも「茨の道を進んで脱原発も再エネシフトもやるのだ」という、国民的決断をするのならいいのですが、何をするのか目標がはっきりしない。脱原発を主張する人は、その政策で予想される問題を、本気で考えているようには見えない。一方で、するべきことを、責任を持つ立場の人が行っていない。混乱に巻き込まれたかのように見える電力会社などの事業者には厳しい感想かもしれませんが、「やるべきことをやりましたか」と、言いたくなることがあります。問題があいまいなまま先送りされは、不健全な状態に放置されています。

私たち誰もが共通に考えることは、エネルギーで、価格が安く、安定的に、そして安全に使えるようにしてほしいということです。今は毎年電力が夏と冬に逼迫して大停電の危機になっていることや、再エネ賦課金の影響で電気料金が上がり、国際情勢の影響でガス・ガソリン価格が上昇しています。ウクライナ戦争で先行きも見えない。この問題について、国民に当事者意識を持って広く知ってもらうことが必要なのかなと感じています。先ほど述べた「われわれ感」と対話が、その当事者意識を作ると思うのです。

しかし政府からも、事業者からも、問題を明らかにして、みんなに考えを求める発信が少ないように思います。対話を逃げているように思うのですが、当事者の方は、私の感想をどう考えるでしょうか。知りたいですね。

――エネルギー問題は、どのような解決に向かうべきでしょうか。

目先のエネルギー問題では、「停止中の原子力発電所の再稼動を、安全を確認した上で急いで行い、電力の供給危機を避け、電力価格を抑制はするが、新規増設はまだ白紙のまま。しかし再エネ導入は諦めない確証を与える」というのが、あらゆる立場の考えの人が受け入れる落とし所かなと私個人では思っていますが、専門家の意見はどうでしょうか。そこから原子力の先行き、電力自由化の検証については、合意をゆっくり作ることが必要と思います。

原子力について、なんでも反対する人は今でもいます。けれども、その人たちの意見は、もはや大きな力になっていません。小泉純一郎さん、菅直人さん、鳩山由紀夫さんら元首相5人は、今年2月に原子力反対を主張するのに、「福島で子供に甲状腺ガンが増えた」とデマを流しました。それには大変な批判を集めました。それどころか、おかしな5人の言動は笑いの対象にもなっていました。こうした変な情報に動かされ、共感する人は、ほとんどいなくなりました。

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