【記者通信/5月10日】原子力世論を変える秘策 気鋭コンサルに学ぶ「議論法」

2022年5月10日

◆原子力を巡る状況変化 そこでどうするか?

――変化を待つのは、遅いという意見もありそうです。この方法は正しいのでしょうか。

私はむしろ既に「かなり変化は起きている」と感じているので、そろそろ次の段階に入ってもいいと思っています。

あれだけ「脱原発」を言い続けていた小泉元首相が、健康上の理由とは言っていますがもうその活動をしないと発表されているのを見ました。各種の世論調査においても、原子力に対する国民の評価は随分と改善してきています。

「変化を待つ」はここまで十分やってきたので、今後はそろそろ「ちゃんと主張する」部分が必要な段階が来るといえるかもしれません。

今までの日本では大事な課題が政治的なオモチャにされることが多すぎて、「なんとなく空気の変化を利用して国民の知らないうちにスルスルと通してしまおう」というような態度が政府やエネルギー関係者にあるようにも見受けられます。

そうではなくて、「今こういう施策が必要なのだ」という事をちゃんと大上段にメッセージとして発していくような事も、そろそろ必要なのではないでしょうか。昨今のエネルギー危機に対しても、皆が皆それぞれの立場から犯人探しを行っているだけで議論が全然深まっていかないのは、政府やエネルギー関係者が「こうあるべきだ」というメッセージを発することから逃げている事も原因の一つではないかと思います。

私はたいていの問題は、後から振り返れば「水が流れるように、落ち着くところに落ち着く」形になることが多いと思っています。社会問題に少しは人が影響を与えられますが、個人や一企業のできること、政府のできることは限られます。まずは先ほど述べた無理ない「落とし所」を達成することを目指すべきと、思います。

――エネルギー問題では、原子力反対や企業攻撃を唱える人の中には、政治的、経済的利益を得る人、もしくは混乱を楽しむ人もいるように思えます。

ある程度、そういう人はピシャリと言い返す必要があると思います。ただし余計な争いを起こし、潰し合いをする必要はありません。それをやると、無駄な労力が発生します。

「反対のための反対」をする人が、相手にされない状況を作ることを考えるべきでしょう。対抗策は、問題を解決しようと考える、まともな人たちを「真ん中」に集めることだと思います。政治主張で過激な行動をするのは、自ら信用を捨てています。紹介した元首相5人などは典型でしょう。

そうした人たちの思い通りにさせないこと、現実を動かして問題を解決し、私たちが幸せになることが、そうした反対派に、本当に「打ち勝つ」ことだと思います。多くの普通の日本人の人に信頼してもらえるような、状況を作ることが大事です。

おかしなことを以前言っていた人が、「本当は、原子力を活用すべきと思っていた」と、全く逆のことを述べて寄ってきても、エネルギーをまじめに考える人は、知らぬ顔をして受け入れて、過去の経緯や細かい恨みごとは捨てる度量を持ってほしいです。問題を解決して前に進むことが「勝利」です。そこで先ほど述べた、「メタ正義感」という大きな視点で、問題を考えるべきでしょう。

――議論で世の中が変えられるといいですが、倉本さんの今後目指すことを教えてください。

世の中の言論の大半は、「自分を売る」ためのものです。それは無意味ではなくて、それぞれの人の立場から見る世界を示してくれます。今は誰でも発信できるわけですから、ネットで売れっ子になる人が、いていいと思うのです。

私は、言論を自分のためというより、社会問題解決の道具として使いたいです。ファシリテーター、つまり相互理解を広げる調停者として、対話を通じて問題を解決していきたい。

日本に今、「このままじゃいけない」という、ふわっとした感情が社会に広がっています。具体的に問題を解決し、社会を前進させる前向きな人たちのまとまりづくりを、手伝って、自分の考えた「議論法」を実践していきたいです。エネルギー問題も、解決すべき、考えたい問題の一つです。

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