津波の危機を逃れた東海第二 さらなる安全性向上対策が進展中

2021年1月3日

東日本大震災での実績 県の評価踏まえ堰を追加

工事もさることながら、安全性向上の観点で奈良林氏が重視したのは、東海第二が東日本大震災で津波に襲われながらも冷温停止した、という実績だ。「実際に10年前、さまざまな意見を踏まえた堰の追加などで津波を防ぎ、電源を確保することができた。対策をしっかり行い、冷温停止できたということは重要な事実だ」と語る。

追加設置した堰と10年前の津波到達地点

11年3月11日、東海村では震度6弱を観測した。東海第二は原子炉が自動停止し、外部電源も喪失。非常用ディーゼル発電機が起動し、原子炉を冷却している最中に、最大5.4mの津波が押し寄せた。これは当時、土木学会が公表した「原子力発電所の津波評価技術」に基づき評価した値(4.86m)を超える規模だった。

だが原電は、茨城県が公表したハザードマップを踏まえた津波対策の追加工事を行っていた。県の津波評価データを基に原電が津波の高さを解析計算すると、海水ポンプ室エリアの最高水位が5.72mだったため、既設の堰の外に、新たに高さ6.11mの堰を追加。これで、ポンプ室の浸水を防ぐことができたのだ。

ただ、震災時は防水工事の一部が完了しておらず、2カ所あるポンプ室の片側の堰に電線管を通す穴の隙間などから海水が浸入。非常用ディーゼル発電機の冷却に必要な海水ポンプが海水に浸かり使用不能となり、3台あったディーゼル発電機のうち1台が停止した。しかし、残り2台で原子炉や使用済燃料プールの冷却に必要な電源を供給することができ、3月15日、冷温停止(原子炉温度100℃未満)を宣言。また、建屋の地震計の記録はいずれの階でも設計上の基準を下回り、安全上重要な機器や配管の損傷はなかった。

奈良林氏は「津波対策の追加工事をしていたことが明暗を分けた。設置したての非常用ガスタービン発電機を使って、格納容器下部の圧力抑制プールの余剰水を処理するなど、崩壊熱除去機能を維持させた。また、他電力から応援に駆け付けた電源車により内線電話(PHS)が使えるようになり、発電所各所で復旧に向けた連携作業が可能になった面も大きかった」と語る。

重ねて、「こうした実績の上に、さらに現在取り組む多様な安全対策工事が加わることにより、『深層防護』と呼ばれる多様で戦略的な安全対策が構築され、炉心が損傷するリスクは1億分の1、隕石の落下確率よりも低くなった。また、万万が一の重大事故が発生したとしても、フィルタベントが作動して放射性物質を濾しとり格納容器内の汚染された水蒸気を浄化して排気するので、周辺環境の汚染も少なく、事故の際はUPZと呼ばれる半径30㎞圏内の住民の方はルール上の屋内退避で済む」と強調。「もし避難が必要になったとしても、粒子状の放射性物質の大部分は取り除かれているため土壌の汚染は非常に小さく、福島第一原子力発電所事故のように長期にわたり故郷に戻れないといった事態は避けられる」と続けた。

コリウムシールドと呼ばれる簡易的なコアキャッチャーも設置され、世界最先端の安全性を備える発電所に生まれ変わると、満足した様子だった。

日本政府の「50年カーボンニュートラル」宣言により、安全性が確認された原発をできる限り長く活用することの重要性が、さらに浮き彫りになった。その基礎となる工事の完遂により、原発活用への理解が深まることを望みたい。

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