【特集2】求められる「急がば回れ」の議論 火力本来の機能で脱炭素化に対応

2021年2月3日

早期の脱石炭は不可能 調整力不足でゆらぐ安定供給

―世界的に脱石炭の議論が活発です。

中澤 今後短期間で「脱石炭」に向かうのは、電力供給上もエネルギーセキュリティー上の観点から言っても無理だと思います。一方、CO2の観点から石炭火力を野放しにはできないことも確か。その点については、金子先生がおっしゃるように、発電効率を高める技術開発が必要で、発電効率の悪い古いプラントを、効率の高いものへと順次更新することが重要です。

一番の問題は、再エネが増え続けて電力系統に与える影響が日に日に不安定になっていることです。そして、その不安定さを吸収する調整力機能が不足の方向に向かっていることを、共通の認識として持っておく必要がある。再エネがどんどん入っているのであれば、これは燃料コストがかからないので、おのずと火力の稼働率は下がります。けれど、繰り返しますが再エネの変動を補う役割は火力です。その役割を担う価値はもっと認められるべきです。

あまり知られていないことがあります。石炭火力はベースロードしか担うことができないと思われがちですが、石炭だって負荷変化はできます。向こう10年から20年のスパンにおいては、プラントの発電効率を上げてCO2を減らしながら、調整電源として活躍させる。そしてさらに長期的にはカーボンフリーに向かう流れが最もふさわしいのではないでしょうか。

それと、発電事業用とともに、自家発の石炭火力の課題についても指摘する声がありますが、事業用に比べれば規模が小さいので、それほど大きなネックになるとは考えていません。

金子 これまで石炭火力は鈍重で、機敏な変化ができないといわれていました。それは燃料系がネックだったからです。でも中澤さんがおっしゃるように、現在の石炭火力には調整力が十分にあります。この調整力には最低負荷運転や負荷変化速度の視点があります。

まず、最低負荷運転について言うと、石炭火力はミルで砕いた微粉炭をボイラーに送り込むわけですが、石炭に鉄くずなどの異物が入り込んでいると、ミルが壊れてしまうから複数台のミルの運転が不可欠でした。ところが技術改良が進みました。これまでのバネ式に代わって油圧によって押し付ける力をコントロールできるようになってきていて、最近ではミルにおいて重大事故は起きていません。フルロードでは全台のミルを動かしますが、負荷を下げる局面においては1台運転でも安全性が高まってきたのです。1台運転すればおのずと負荷を落とした低負荷運用が可能なのです。

もう一つは負荷変化速度。連続流体として燃料の流量を細かく制御できるガス火力や石油火力と違って、石炭火力はミルで砕いた微粉炭を送風機でボイラーに送る仕組みです。うなぎ屋のかば焼きをうちわであおいでいるようなものですから、精密制御が難しい。ところが、改善できる技術があるのです。

―どういうことですか。

金子 「高濃度搬送」と呼ぶIGCCで培った日本オリジナルの技術です。ミルからいきなり微粉炭を送風するのではなく、一度貯めて燃料の密度を高める。そのぎっしり詰まった状態でガス火力の燃料のように連続流体としてIGCCのガス化炉へ送り込む。

この技術を既存の石炭火力に適用すれば、負荷変化速度の能力は一気に上がり、1分当たり15%が可能になります。これはガス火力よりも高い。

大場 今後、石炭がベースロードから調整電源としての可能性が出てくるとなると、まさに「石炭フェードアウト問題」とも関係します。調整運転している石炭があるとします。そうしますと、当然プラントの効率が悪くなる。

金子 ちょっと口を挟みます。「効率」の話題に触れるときに、有識者の中でも燃焼効率と熱効率を区別しないで発言される方がいます。燃焼効率は現在ほとんど100%です。熱効率は熱力学の法則で決まります。これが発電効率です。技術用語としては両者は明確に違いますので、ちょっと補足させていただきます。

―ご指摘ありがとうございます。大場さん、続けてください。

大場 現在、石炭火力のフェードアウトについて発電効率で区切ろうとしています。そうしますと、再エネのために調整制御していることから、発電効率は落ちる。九州電力の石炭火力が最たる例ですが、本来であれば調整電源を残すべきなのに、国の議論にのっとれば、退場を強いられる。その辺の不公平をどうやって調整するかが課題でしょう。

金子 一方、こういう考え方もあります。例えばハーフロード運転になったら、効率が落ちたとしてもCO2排出量が半分になります。その辺を加味した議論が必要でしょう。

中澤 発電効率を規制する法体系は省エネ法。しかしCO2の総排出量は高度化法です。しかも高度化法は小売り側にかかっていて、発電側には関係がない。この辺を交通整理しないといけないのではないでしょうか。

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