【特集2】求められる「急がば回れ」の議論 火力本来の機能で脱炭素化に対応

2021年2月3日

今の市場設計は万全か 「火力延命化」の誤解

―技術継承の課題や制度的な課題についてコメントはありますか。

中澤 先ほど金子先生からご説明いただいたIGCCは30年近くかけて取り組んできた技術で、ようやく花開きました。福島の勿来では無事商用運転へとこぎつけています。その地道な取り組みがあったからこそ、高濃度搬送技術が生まれたわけです。今の技術の延長に未来の技術があるわけですから、技術開発への取り組みは継続してこそ意味を持ちます。

 その点において、日本が取るべきスタンスは火力を拒否する姿勢ではなく、既存の火力を賢く使って、火力の得意技である調整力をいかに発揮させることができるか。その結果、多くの再エネを導入して安定した電気を送る。そうした取り組みを続けながらカーボンフリーの技術を培っていく。それこそが3Eを守りながら脱炭素化することにほかならないと考えています。

金子 一番の心配は、火力の技術革新を進めて「リプレース」を支えていくためのメカニズムが、受け入れられるかどうかです。容量市場の議論に関わりますが、限界費用ゼロの再エネがどんどん入ってくると、メリットオーダーで運用している限りは、可変費のみしか考慮されず、固定費の回収を担保できません。これを是正するために容量市場で手当てしよう、という議論が出発点なのに、なかなか理解を得られていないのが現状です。

 この議論を難しくしているのは時間軸です。発電所の建設には5年かかり、10年以上かけて投資回収します。5年先以降の設備コストのために、なぜ小売り事業者が今負担しないといけないのか、という心理的な不満です。昨年の日本の容量市場の議論では、「償却済みの設備」なのか「償却済みでない」かが区分けされていませんが、その辺を整理して議論していかないと、気付いたときには発電容量が足りなくなるという事態が訪れることを恐れています。ポーランドなど欧州では「既設の容量市場」と「新設の容量市場」をはっきりと分けています。

中澤 この手の議論は「火力の延命化のため」と誤解されかねません。でもそれは違う。繰り返しますが、新しいものへ更新することで、効率や機能が上がりCO2を大幅に減らせる。再エネもたくさん導入できる。何よりも大事なことは安定供給もちゃんと担保できる。こういうことを電力業界がしっかりと説明しないといけません。古い設備が残り続け、何も技術が進歩しないということが、最も恐れているストーリーです。

大場 新設は全て駄目だという論調が強い中、「新設容量市場」を仮に議論すると、かなりハレーションがありそうな気がします。やはり、エネルギー業界全体で「安定供給の重要性」を訴えながら説明していく必要があると思います。容量市場の設計の議論は国によって全く違いますので、日本固有の事情を鑑みた市場設計が必要です。それから、容量市場の在り方もそうですが、今後、需給調整市場など、新しい市場も立ち上がっていきます。従来とは異なる発電所の運用が求められていくと思います。

―本日はありがとうございました。

かねこ・しょうぞう

東京大学工学部卒、三菱重工入社。火力プラント設計に従事。2008年東大生産技術研究所先端エネルギー変換工学寄付研究部門特任教授。現在、研究顧問。

なかざわ・はるひさ

東京大学工学部卒、東京電力入社。千葉火力発電所長などを歴任。2014年から火力原子力発電技術協会。16年から現職。

おおば・のりあき

京都大学大学院理学研究科博士後期課程を単位取得退学。シンクタンクに入社後、現在、日本データサイエンス研究所フェローなどを務める。

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