【目安箱/4月1日】小泉進次郎氏の「政治家的使い方」 世論の先を見るために

2021年4月1日

この言葉から、考えることがあった。世論とビジネスの向き合い方だ。

東京電力の原発事故から10年が経過した。エネルギー業界の人々は事故当初、嵐の過ぎ去るのを待っていたように思う。2011年時点である電力会社の幹部は「東電はとんでもないことをしてくれた。静かに様子を見る」と話していた。都市ガス会社の幹部は事故について「ガスには影響はない」と述べた。ところが、この事故をきっかけに世論に押されたエネルギーシステム改革と自由化が進み業界の姿は変わってしまった。合理的には考えられない動きが、世の中の勢いで形になってしまった。

政治家は世論を体現する

エネルギー関係者の多くは、真面目なエリート。そしてエネルギー事業は、化学物質をエネルギーの形に変換して供給し、その供給ルートをしっかり整備しなければならない。科学と管理、合理性の必要な業種だ。消費者も、品質と安さで原則動く。その仕事では理屈が通る面が多かった。業界を貫く合理性を捨てる必要はないが、そればかりではビジネスは動かない。それが世論と政治に翻弄された、エネルギーを巡るこの10年の動きの教訓だ。どうも、そうした世論の怖さを、いま一つ分かっていない人がエネルギー業界の中枢にいる。

エネルギー関係者の小泉進次郎氏への態度の多くは、前述したように、苦笑、冷笑の類が多い。しかし元官僚のコメントのように小泉氏が「世の中の流れをつかんでいる」という面は否定できない。一人の政治家の背景には、それを支持する有権者がいて、政治家はそれを体現するように動く。もちろん、彼そのものに、政策や法律を作ったりする能力があるかは疑わしい。けれども彼が、一種の「神輿(みこし)」として、一つの流れの象徴になってしまうことはあるかもしれない。女性週刊誌にまで頻繁に出て、ハンサムな写真とコメントが掲載され、あらゆる立場の有権者に注目される政治家は他にいない。

確かに、頭が良く偏差値の高い人ほど、小泉進次郎氏の言動は滑稽に見える。しかし、その「トリックスター」(物語で話を混乱させるものの動かす役割の登場人物)としての存在を認めるべきだと思うが、どうか。彼を盛り立て利用する人(例えば財務省・環境省)、賛美する人(例えば女性週刊誌の編集者と読者など)、彼の言葉に踊る人(例えばビニール袋有料化を進めた業界など)を注意深く観察すると、日本でのエネルギー・環境問題に関する利害関係が見えてくる。エネルギー・環境問題に関わる人々は、彼への好悪は置いて、その観察から、多くの学びを得られるに違いない。それが、小泉進次郎氏の政治家としての「使い方」であるといえよう。

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