脱炭素と再エネ共存を目指す 蓄熱運用を変革する時代へ

2021年5月7日

【ヒートポンプ蓄熱の新潮流/第1回

地域熱供給事業者として、国内最大の蓄熱槽を保有する東京都市サービス。脱炭素・再エネ共存を目指して従来の「ピークカット・シフト」の運用を変えようとしている。

東京大学の松本真由美・客員准教授が同社福嶋岳夫社長に今後の展望について話を聞いた。

松本真由美 東京大学客員准教授

福嶋岳夫/東京都市サービス代表取締役社長

松本 東京都市サービスが手掛けている、晴海トリトンスクエアの熱供給事業の施設を見学しました。大都市のど真ん中で大規模な熱源機器や蓄熱槽を運用しながら、熱供給事業を行っていたことを知りびっくりしました。高い省エネ性を誇っているとは聞いていたのですが、改めてこの晴海トリトンスクエアの地域熱供給についての概要やポイントについて教えてください。

福嶋 晴海トリトンスクエアの熱供給施設は2001年に運用を開始しましたが、再開発の段階から非常に計画的に作られています。三つの大きな棟に囲まれており、熱供給のアクセスを考えてプラントは建物群のちょうど真ん中に配置しています。また各棟の地下には、巨大な水の蓄熱槽がプラントを囲むように設置されています。

 それともう一つの特徴は水槽、つまり蓄熱槽の容量が大変に大きいことです。1万9000tの規模で、これは熱供給事業としては日本最大です。この蓄熱槽のおかげで、全体の熱需要に対して、ヒートポンプを中心とした熱源機器の容量を約半分に抑えています。

 仕組みはいたって単純で、電力需要の少ない夜間に熱源機を動かして蓄熱し、昼間の時間帯に蓄熱槽から放熱します。そうすることで昼間の電力のピークを半分に抑えることができるわけです。

1万9000tの蓄熱槽を保有する晴海トリトンスクエア

松本 効率的な熱利用ができるように再開発と熱供給施設の計画が一体となって進んだ。さらに蓄熱を活用することで電力の負荷平準化に寄与しているわけですね。

福嶋 はい。当社では現在、関東エリアを中心に19カ所で熱供給事業を行っていますが、特に銀座周辺の地点が多いですね。地価が高いところには熱供給事業、つまり地域冷暖房が採用されやすい特徴があります。熱供給のような熱源機器のセントラル方式によって、ビルのオーナーは各フロアの空調用の機械スペースを省けます。また熱供給を受けるビルは、自前で冷暖房するための地階や屋上に設置する機器を大幅に省略できるため、その分貸し出すスペースや屋上利用スペースが広がります。さらに熱供給プラントが設置されるビルは容積率が緩和されるなど、地価が高いところに向いている特徴がありますね。

松本 こういった蓄熱槽は有事の際の防災対策にもなるわけですか。

福嶋 はい。われわれは蓄熱槽をコミュニティータンクと呼んでいまして、火災発生時には消火用水としても利用できます。晴海トリトンスクエアでは年1回は消防車が来て、蓄熱槽から放水する試験を実施して機能を確認しています。

 また、東京の京橋地区では清水建設さんの本社ビルの地下に熱供給プラントがありますが、行政側と連携し、有事の際には清水建設さんが帰宅困難者を受け入れることになっています。ここでは蓄熱槽がトイレ洗浄のための生活用水として利用できる仕組みになっているなど、いろいろな機能を蓄熱槽は兼ね備えています。

松本 平時には省エネ対策として稼働し、有事の際には近隣に対しての防災対策、レジリエンス機能を高めていくということですね。さて、今、政府がカーボンニュートラルを目指しています。そこを目指す上で大前提となるのが省エネです。その意味で熱供給の導入は省エネ対策として重要だと思います。そうした中、東京都市サービスの地冷では、あまり使われていない熱を有効に使う取り組みなど、さらに省エネ性を高めようとしています。

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