脱炭素と再エネ共存を目指す 蓄熱運用を変革する時代へ

2021年5月7日

松本 昨今のコロナ対策でも有効になりそうな手法ですね。

福嶋 そうです。万が一感染者が出たら、所員の多くが自宅待機を余儀なくされ、運転に支障をきたす可能性があります。なので、昨年、本社内に急きょ、臨時の制御ルームを作りました。

松本 大規模な改修工事を行ったのですか。

福嶋 いいえ。これまで培ってきた遠隔制御の仕組みを流用したわけです。つまり、本社にあるパソコン一つで他地点のプラントを運用できていますので、入出退の管理を徹底した制御ルームを急きょ、本社内に仕立てたわけです。本社側の制御機能を再確認し、あとは入出退を管理するだけで済みました。

松本 すごいですね。万が一、感染者が出たとしても遠隔操作で運用できる、と。

福嶋 そうです。早くから遠隔制御の仕組みを取り入れてきた結果です。幸い、まだ感染者が出ていませんので、その制御ルームを使ってはいませんが、何回か訓練して、運用の確認をしています。大型蓄熱槽が熱供給のバッファー機能を果たしていることから、こうした遠隔制御の仕組みは、蓄熱槽運用とも相性がいいですよ。

需要側で電力系統を安定化 需給調整市場への貢献が使命

松本 私は再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会の委員の一人でして、その議論の中でVPP(仮想発電所)運用をどうするか、話題に出てきます。そうした遠隔制御の仕組みは、VPP運用にも応用できるのですか。

福嶋 データのやり取りも容易に行えますので、相性がよいといえます。実際、当社では蓄熱槽とヒートポンプを活用しながらVPPの実証を5年近くかけて行ってきました。これまで、われわれは夜間に蓄熱して昼間に放熱するという運用が日常でした。とにかくピーク電力を下げるための運用で、これは要するに電力需要が伸び続けていた時代のやり方でした。けれども、これからは、電化への大きな流れがあるとはいえ、電力需要は下降傾向です。また大手電力会社による、石炭火力をベースとした電源の運用も不透明です。そういう局面を見据えて、需要側で系統のバランスを取る必要が出てきます。

松本 従来は火力発電を中心とした供給側を主軸に系統のバランスを取ってきました。

福嶋 その通りです。ですので、実証では「夜間蓄熱」一辺倒の運用ではなく、昼間にどういう運用をするべきなのかを模索する実証を進めてきました。例えば、当日の昼間に、太陽光はどんどん発電しているのに、急に需要のピークが落ちそうな局面が生じたとします。そのときに、急きょ熱源機を立ち上げて、余剰電力を吸収する。

松本 複雑な運用ですね。そうした運用は、これから再エネが大量に導入されていく時代においては、大変に価値ある運用になるのではないでしょうか。

福嶋 おっしゃる通りです。今後目指すべき脱炭素時代では再エネの電気をいかに有効活用するかの視点が大切になるわけですが、いかんせん、再エネは、いつ何時出力が変動するか分かりません。

 そうした中、われわれは、蓄熱式ヒートポンプ設備を系統安定化のための「需要側の調整力」と考えております。その調整力は、即応性と正確性が極めて重要で、例えば再エネの発電量が急激に増えた際に系統のバランスを保つために「30分後に1万kWの需要を1時間上げ続ける」といった電力会社からの指令があるとします。それに対して迅速に、そして確実に応じられる蓄熱槽を活用した調整力が大切だということです。

 これまでの実証では、そうした場面を想定して運用してきました。求められる条件も年々シビアになりましたが、何とか系統側からの指令に応じることができました。このような「上げDR」への協力も、蓄熱槽の最大保有会社である当社の使命だと思っています。

松本 深夜にヒートポンプを動かしていた運用とは様変わりですね。今年から電力の需給調整市場が立ち上がるわけですが、蓄熱式ヒートポンプの運用がそうした市場に貢献していく可能性がありますね。

福嶋 需給調整市場の検討の中で、われわれが進めてきた実証によって蓄熱槽の応答性や迅速性が評価されたと自負しています。熱供給事業用の蓄熱槽による調整力は全国で28万kW分あるのですが、そのうち、当社では13万kW分の調整力を持っています。ポイントはこれらが追加のコストを掛けずに、調整力を発揮できることです。

松本 蓄熱式ヒートポンプの運用が今まさに変革の時代を迎えようとしているわけですね。本日はありがとうございました。

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