脱炭素社会で「核心的役割」 ヒートポンプ蓄熱で省エネ推進

2021年7月11日

電力とガス両方を活用 設備更新で環境対策

 品川東口南地区地冷の特長について、プラントを運営・管理している品川熱供給の槌尾雄造社長は「電力とガスのベストミックスを図っている点です」と説明する。

 同地冷は98年の運用開始以降、さらなる環境対策と運転効率向上に向けて設備更新を重ねてきた。15年2月、19年5月、20年2月および同年6月の3期にわたって大規模改修を実施。直近の改修では2基の吸収式冷凍機をインバーター制御ターボ冷凍機(1250RT・荏原冷熱システム製)に更新した。

 運用開始当初は都市ガスを熱源にした設備が多く、熱源エネルギーの構成は電力2対ガス8の割合だったという。

 その後は東京都条例でエネルギーを石油換算で1500ℓ以上消費する事業所に対してCO2削減義務が課せられたことで、設備の更新時に吸収式冷凍機から、環境性能およびエネルギー効率に優れたターボ冷凍機への入れ替えを進めた。現在の熱源エネルギー構成は電力6対ガス4程度まで変化している。

㊤直近の改修でインバーターターボ冷凍機を導入した ㊦メンテナンスルートが広く整
備性が高いのも特長の一つ

設備の最適化で効率向上 設備点検にも大きな特長

 大規模な改修工事を進めたことで、プラント全体のエネルギー消費効率(COP)は、一日平均0・81から15年に0・9台に改善。電気とガスのハイブリッド化を維持しながらも、その割合を変えながら進めたことで、CO2排出量を抑えながら運転時に消費する熱量を減少させることに成功した。

 最新鋭のターボ冷凍機を導入すると同時に、既存設備を最適に制御するシステムを構築することで、COPの改善を図った。着目したのが、ポンプから発生する冷却水の流量だ。一般的に冷媒に水と吸収液を使用する吸収式冷凍機を導入した場合、冷水を製造する過程で生じる冷却水は集合管を通じて建物屋上に設置された冷却塔へポンプで圧送される。

 当然のことながらポンプを動かすためには電気を消費する上、年式の古い吸収式冷凍機は負荷状況にかかわらず冷却水を一定量排出し続ける運転しかできないものもある。そうすると、冷凍機にかかる負荷が低い時間帯にも冷却水が多く発生し、その分だけポンプを余計に動かさなければならない。システム全体のCOPが落ちてしまう。

 特に同プラントは、地下3階のプラントから屋上の冷却塔までの竪管の長さは140mもあることから、ポンプが消費する電力量も結構な量があるという。

 冷凍機の設定で冷却水の流量を調整することも可能だが、流量を絞りすぎると今度は冷凍機の稼働効率が落ちてしまう問題も生じる。プラントを高効率に運営するためにも、冷却水ポンプの稼働状況を最適化する必要があった。

 その対策として、吸収式冷凍機のリプレースを行ったタイミングで、同機に接続していた冷却水ポンプの流量を調整するシステムを導入した。自機および周りの冷凍機の負荷に応じて冷却水の圧送量を調整できるよう運転システムを構築した。

 これにより、システム全体のCOPは一日平均0・85だったが、冷水製造熱量ピークを迎えた20年8月17日には一日平均1・00を記録するなど、大規模改修とシステムの見直しでCOPの改善を実現している。

 設備を効率的に運用するためには、日頃からの保守・点検も重要だ。この点でも同プラントは大きな特長を持っている。「プラント内部のメンテナンスルートを十分確保しているため、日常の設備点検や設備更新がしやすい特長もあります」(大塚淳技術部長)。メンテナンスルートの十分な確保はプラントを安全に、そして安定的に運用していくことにもつながる。

互いに連携した設計 開発事業者の理解

 さらに同社の株主には日鉄興和不動産、住友生命保険、大林組、日本設計などが名を連ねている。いずれも品川インターシティ計画に設計段階から関わっている企業で、ステークホルダーが、互いに連携しながらプラント設計を含めて、熱供給事業の計画を進めてきた。開発事業者が地冷に対して深い理解があるというのも、地冷が持つポテンシャルを最大限生かすために必要なのかもしれない。

 新型コロナウイルス対策としては、感染症対策を徹底した上で、集中監視室の作業員を4グループに分けて交代制で対応。感染者を出すことなく運転を続けている。今後も脱炭素社会の構築に向け、時代の変化に対応しながら安定供給を続けていく構えだ。

〈浪江町〉

道の駅でヒートポンプを導入 再エネ導入拡大と省エネに貢献

「道の駅なみえ」では、ヒートポンプを採用している。

再エネ導入拡大や施設の省エネを図る上で、重要な役割を担っている。

 「水素タウン構想」や「ゼロカーボンシティ宣言」を掲げる福島県浪江町は、再生可能エネルギーを積極的に活用した街づくりを進めている。

 公共施設や災害復興住宅などに太陽光発電、電気自動車(EV)や充電スタンドを積極的に導入することで、災害時にも安心・安全な地域を築くスマートコミュニティ事業に取り組んできた。この中核を「道の駅なみえ」が担っている。同施設は2020年8月にプレオープンし、B級グルメでも知られる「なみえ焼そば」や地元グルメ・スイーツを楽しめるフードコートのほか、土産物店、地元名産品の大堀相馬焼の陶芸体験もできるスペースも併設している観光拠点だ。

㊤21年3月グランドオープンした道の駅なみえ ㊦太陽熱を利用した業務用エコキュート(左奥)とビル用マルチエアコン

 さらに全国各地にある道の駅では初となる無印良品が出店するなど、観光客だけではなく地元住民が集うコミュニティスペースとしても盛況だ。災害時には地域の防災拠点にもなるという役割も併せ持っており、同施設には再エネの発電設備やEV充電スタンド、高効率なヒートポンプ(HP)が多数導入されている。

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