脱炭素社会で「核心的役割」 ヒートポンプ蓄熱で省エネ推進

2021年7月11日

再エネ電源を多数導入 省エネにHPをフル活用

 施設の電源には、太陽光発電(30‌kW)、小型風力発電(0・3kW×3基)、福島⽔素エネルギー研究フィールド(FH2R)から運搬された水素を使用した燃料電池(3・5kW)も設置した。これら再エネ電源は道の駅で消費する電力消費量の10%程度を賄っている。また従業員向けにEVの充電スタンドを5基、今年3月には来場者向けにEV充電スタンドを新たに1基敷設。充電スタンドは電気の逆潮流が可能なモデルを採用している。非常時には公用車を接続することで、建物や避難者に電気を供給することも可能となっている電化システムだ。

 館内用設備には、ビル用マルチエアコン(77・5kW、95‌kW、100kW、106kWそれぞれ1基)、太陽熱を利用する業務用エコキュート(‌‌30‌kW)を導入。エコキュートの温水はフードコートの厨房で活用されている。浪江町産業振興課商工労働係の大柿光史副主査は「電気消費量を低減させてランニングコストを引き下げる点でも、マルチエアコンやエコキュートは大きく貢献している」と話した。

 将来的には同施設を再エネ電源100%で運営したい考えもあるという。こうした野心的な目標を実現するためにもHPを上手に活用することも重要だ。

TOPIC〈氷蓄熱システム〉

もう一つの蓄熱システム「氷」の力

蓄熱には水を媒体としたシステムに加えて、氷による蓄熱システムも存在している。小さな蓄熱槽でより多くの熱をためることが、特長として挙げられる。

方式によりスタティックタイプとダイナミックタイプに分かれ、前者は蓄熱槽内のコイルに製氷する仕組み、後者は製氷場所から蓄熱の場所へ直接氷を移動させる仕組みだ。

氷蓄熱設備の販売大手、日本BACによると、空調向けや地域冷暖房向けだけでなく、工場の製造プロセスでの利用も可能だという。中でもニーズがあるのは食品工場だ。

通常、食品工場の生産プロセスでは殺菌工程が不可欠で、高温殺菌後、冷却する。そのプロセスで氷蓄熱が効果的だそうだ。「ゆっくり冷却すると、菌が増殖してしまう可能性があります。氷蓄熱を使えば急速に冷やすことができるため、そうしたリスクを抑えることができます」(日本BACの木原崇・営業第1部部長代理)

氷蓄熱設備の外観

日本BACでは、前川製作所とともにCO2冷媒を使ったノンフロンタイプの「氷蓄熱式チラー水供給システム」を共同開発し、地球環境に優しい蓄熱システムを世に送り出すなど、技術開発も進んでいる。

食品工場のような生産プロセスにおいても、電化による蓄熱システムの導入が進んでいけば、脱炭素へ少しずつ前進していくことになる。

【INTERVIEW】奥宮正哉/名古屋大学名誉教授/名古屋産業科学研究所上席研究員

コロナ禍で変わる空調制御 蓄熱の新たな機能への期待

ヒートポンプ・蓄熱センター内の専門委員長に就任した奥宮正哉氏。

これまでの蓄熱の評価や今後の展望について話を聞いた。

おくみや・まさや 名古屋大学などで建築設備、地域エネルギーシステムに関する研究・教育に従事。空気調和・衛生工学会会長(2016〜18年)。

――今年度からヒートポンプ・蓄熱センターの蓄熱専門委員会の委員長に就任しました。

奥宮 前任の射場本忠彦先生(現東京電機大学学長)から引き継ぎました。重要な役割に、身が引き締まります。ヒートポンプ蓄熱システムは多くの価値を持ちます。内外に理解してもらい、正しく普及させたいと考えています。

――ヒートポンプ蓄熱がこれまで果たしてきた役割をどう評価していますか。

奥宮 まずは省エネに資するということ。また、蓄熱というバッファー機能があることで、仮に熱源機が故障したとしても、機能の維持を担保します。これはBCP(事業継続計画)であり、広義のエネルギーセキュリティーにも寄与します。それから深夜の電気を活用して昼間のピークカットを抑える負荷平準化に大きく貢献してきました。東日本大震災後は、この機能が大きく認識されたと考えています。

 さらに、未利用熱エネルギーを有効利用できることも評価のポイントです。河川熱や下水熱など、そのままでは使えない熱でも、ヒートポンプを組み合わせることで有効に活用できます。

――ためる技術には蓄電池や水素貯蔵などがあります。

奥宮 現状では課題を抱えています。最終的に熱として利用されるならば、現時点で効率やコスト面でパフォーマンスに優れているのは蓄熱システムでしょう。

コミッショニングの重要性 再エネとの共存図る

――ヒートポンプ蓄熱に代表される電化システムは分野問わず普及しました。現状の課題は。

奥宮 まだまだ省エネのポテンシャルがあるということです。例えば、電化システムに限りませんが、各建物や建物内の居住者、テナントがどのように建物を使い、どのようにエネルギーが消費されているのか詳細に把握できていません。ですからテナント、システム設計者、施工者、設備運用者、ビルのオーナー、あるいはエネルギー事業者らが密に連携しWin-Winになるようにシステム設計や運用を進めていく必要があり、そのためのコミッショニングを確実に行うことが必要だと思います。

――ビルにおけるエネルギー使用という側面では、コロナ禍でオフィス環境は大きく変わりました。

奥宮 コロナ禍では換気の重要性が広く認識され、換気を確実に行うために中央式空調の役割が再認識されました。そして、オフィス内業務は、一般的な業務なのか、コミュニケーションを図るための会議的なものなのか、それぞれのシーンによって空調システムに要求される負荷処理の内容も変化します。そうした変動する要求に対応でき、また省エネを担保できるシステムの重要な要素が蓄熱だと考えています。

――ヒートポンプ蓄熱の今後の展望や役割は。

奥宮 DRやVPPへの貢献、あるいは再エネとの共存など新たな役割が求められます。例えばある大手ゼネコンの事例で、技術アドバイザーとして関わったことがあります。自社の研究施設で太陽電池の余剰電気を有効活用したヒートポンプ蓄熱を運用し、逆潮流をどれだけ減らし、省エネにつながるか実証したのですが、大きな成果を得ました。

 低コストでエネルギー効率が高いといった特長を生かした蓄熱設備が機能したわけです。昼間に発電した再エネの自家消費を進める上でも、ヒートポンプ蓄熱が果たす役割は大きいです。

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