【東邦ガス 増田社長】持続可能な社会の実現と中部地区のさらなる発展に技術とサービスで貢献する
各部門で多様な経験 チームワークの大切さ
志賀 エポックメイキング的な出来事はありますか。
増田 入社以降、各部門に配属されさまざまな経験を積んできました。20、30代は技術部に配属されプラントや工場、コージェネレーションシステムの建設などに携わり、40代は生産本部でガスの製造工場を管理する仕事に就いてました。50代に入ってからは導管部門、そしてこの3年間は、R&D・デジタル本部長としてデジタル技術に係わっていました。
20、30代の建設の現場では、社員のみならず工事会社やメーカーの担当者の人々とのチームワークがなければ良い仕事はできないと痛感しましたし、安定供給をまず最優先にする生産本部では、何かあればお客さまへのガスの供給が止まってしまうわけですからその大切さを叩き込まれました。
例えば、ガスの製造装置には不測の事態やメンテナンスに備えて予備機があり、私自身、1台が止まっても予備が自動起動して事なきを得れば大丈夫だと思っていました。ですが、生産本部としてはそうはいきません。ガス需要が多い冬の大事な時期に機器が止まるとは何事か、どういうメンテナンスをしていたのかと、徹底した原因追及と二度と止めないための対策の検討が始まりました。ここでは、リスクを極力回避する姿勢を植え付けられました。
また、冬場は風が強くLNG船が着桟できないことが度々あります。船の受け入れができないことは当然想定しているのですが、さらにその次の船が来れないことを想定し、常に最悪の事態を想定した手を打たなければなりません。幸いにしてこうしたことはほとんど徒労に終わるのですが、そうして確実な安定供給体制を確保しているのです。
二つの震災で実感 ガス早期復旧の使命
志賀 災害対応ではどのような経験がありますか。
増田 導管部門を担当していた16年4月に熊本地震、18年6月に大阪北部地震が発生しました。導管部門の社員は、当社管内で発生した地震ではなくても、発生から2~3時間後には集結します。熊本地震の時も私が出社すると既に社員が集まっていて、いつ現地に出発しましょうかという雰囲気になっていました。まだ西部ガスさんからの応援要請もないにもかかわらずです。旅行中だった社員も途中で取りやめて帰ってきましたし、応援要請があればすぐにでも出発できるよう体制を組むことができました。ガス会社の社員には、たとえ自社管内ではなくとも、早期復旧を担うという強い使命感があります。
志賀 先ほど、業界を取り巻く環境変化としてカーボンニュートラルを挙げられました。菅政権に代わり、LNGはこれまで低炭素化の担い手として期待されていたわけですが、今石炭火力が置かれている状況が数年後にはLNGにもたらされる可能性があります。
増田 カーボンニュートラル社会を目指すとはいえ、便利で快適な生活を支えるという当社の使命が変わることはありません。CO2を排出するからあれもこれもダメでは、生活が成り立たなくなりますから、バランスが何よりも大事だと考えています。
われわれは、ガスを使っていただいても将来安心であるというきちんとしたカーボンニュートラルに向けたシナリオを作り、事業を継続していかなければなりません。そうしたことを広くご理解いただくために、先般、グループとしての決意や今後の対応の方向性を示した、「2050年カーボンニュートラルへの挑戦」を公表しました。その中では、メタ―ネーションやカーボンリサイクル技術の社会実装、当社知多緑浜工場の水素供給拠点化などの構想を掲げており、サスティナブルな社会の実現と中部地区のさらなる発展に貢献していきたいと思います。
志賀 化石燃料を販売するガス会社にとって、LNGのカーボンニュートラル化は欠かせません。ますます技術革新が重要になります。
増田 そうですね。冨成（冨成義郎会長）にも言われたことですが、今後はデジタル技術にしても、カーボンニュートラルにしても、技術屋が知恵を使わなければならないシーンが増えていくでしょう。だからと言って、技術系でなければならないということでは全くありません。メタネーションに取り組んでいかなければならないことは間違いありませんが、突然できるようになるわけではありませんので段階を踏んで進める必要があります。
メタネーションによりカーボンニュートラルなガスを供給するためには、メタネーションそのものの技術はもちろん、安価な水素のサプライチェーンを構築することが大前提となりますし、メタネーションに必要なCO2のリサイクルをどうするのかという課題もあります。この二つの条件が揃い、メタネーションの技術が確立されて初めて都市ガスのメタネーションが可能になります。
